Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第92夜

知らない町を




 本当かどうかは知らないが、「自分に縁遠い地名は頭高に発音される」という法則があ
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るんだそうだ。どこで聞いた話だかも覚えてないので、確認のしようがないのだが。
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 以下に秋田県内の市の名前を北から挙げるので、それぞれどう読むか試してみてほし
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い。
能代(のしろ)
.
大館(おおだて)
.
鹿角(かづの)
.
男鹿(おが)
.
秋田(あきた)
.
本荘(ほんじょう)
.
大曲(おおまがり)
.
横手(よこて)
.
湯沢(ゆざわ)
 秋田市在住である俺の場合、
しろ   しろ
.
おだで  おだで
.
づの
.

.
あき
.
んじょう
.
おまが
.
ごで
.
ざわ
 となる。確かに、第1拍が低くて後ろで上がっているのが多い。県北の3市が頭高だっ
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たりそうでなかったりでゆれているのはなぜだろう。大館を除けば、ほとんど行ったこ
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とがないので、縁遠いといえば縁遠い。そのせいか。
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 「大館」「本荘」「大曲」は、どれも伸ばす音が入っているが、実際には「おだで」「ほん
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じょ
」「おまがり」に近い。「おぉだで」「ほんじょ」「おぉまがり」という感じか。
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 詳しく言うと、「大曲」の例では、最初の「お」は低く、次の「お」で上がり、「まが」が高い
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ままで、「り」で降りてくる。
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 「まが」という感じだ。


 日本語には「外来語や、無意味な音の連続は、後ろから3拍目までが高く発音され
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」という特徴があるらしい(*)
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 ニュースなどで各市がどのように発音されるかを見てみよう。
しろ
.
おだて
.
づの
.

.
きた
.
んじょう
.
おまがり
.
こて
.
ざわ  ざわ
 2拍の「男鹿」を除けばぴったり一致するではないか。なるほどそう言うわけか。
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 「大曲」をネイティブ発音と区別するときのポイントは下がる場所である。高いのは「お
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ま」だけ。ネイティブが2つめの「お」で上げて、「まが」まで高いのとは違う。並べると
 「おま
.
 「まが
 となる。
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 「湯沢」はちょっと自信がないのだが、俺の感覚では「湯沢」の頭高はかなり違和感が
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ある。


 目を町村に転じてみる。
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 ここで気になるのは、外部の人間が「町」「村」を除いた形で呼ぶことは少ない、と
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いう点である。旅行好きな人は、今までに行った町村を思い出してみてほしい。スキ
.
ーをやる人は「白馬」なんてのが思い付くと思うが、それは村の名前というよりは、山
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の名前ではないか。
.
 で、「まち」とか「むら」とかをくっつけた時点で、急に標準語っぽくなってしまう。なん
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か、ネイティブ発音で呼び辛い。
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 というわけで、ネイティブの(というか同県の)人は「まち」「むら」抜きで呼ぶ。つまり
河辺(
.
雄和(うわ
.
協和(きょうわ
.
合川(いか
 となる。敢えて「まち」「むら」をつけた場合、それは自治体名であって、地名ではな
.
い。役場をさすことが多い。


多摩に行くんだって? どこ?
 という問いに、
青梅
 とは言えるのに、
檜原
 とは言いにくい。これはどういうわけだろう。
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 市と町村のネームバリューの差かと思ったが、檜原村は例の御巣鷹山があって、決して
.
無名の村ではないから、そうとも言えないような気がする。


 なんかまとまりのない話になってしまった。



注:『方言学の新地平(井上史雄、1994、明治書院)』



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第93夜「前言撤回」

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