Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第66夜

スーパータムラマロ




 「県立戦隊アオモレンジャー」という番組をご存知だろうか。
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 や、ほとんどの人は知らないと思うんだが。
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 これは、RAB 青森放送が製作した、例の「秘密戦隊ゴレンジャー」とかのパロディであ
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る。TVではなくラジオドラマで、友人経由でそのテープを入手して聞かせてもらったのだ
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が、これが面白い
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 名前の通り、舞台は青森。日本の農林水産業を我が物にせんとする悪の組織が青森
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を狙っている、という設定で、立ち向かうのが、リンゴレッドイカブルーシャコイエロー
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イタコブラックホタテピンクの5人の勇者、というわけだ。
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 最初は期待してなかったのだが、夜中に大笑いし、ご近所に迷惑を掛けてしまいそうに
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なった。
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 第1話は、秋田からナマハゲが津軽のリンゴ園に攻めてくる、という話であった。ここまで
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でなんとなくわかると思うが、非常に捻りの聞いた、ちょっとばかりあぶないストーリーであ
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る。洒落の分からない人には不愉快な番組かもしれないが、俺は柔軟だぜ、と自信のある
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方は、なんとかして聞いてみていただきたい。残念ながら、不定期放送らしく、県外在住の
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俺にはちょっと辛いのだが。


 悪の改造人間は、最初が秋田支部のナマハゲで、2話では岩手支部、3話では山形支部
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との戦いになる。第1話を除き、伊奈かっぺいが演じている。
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 怪人達は各地の方言を話すわけであるが、山形だと「〜のす」、岩手だと「〜なす」という
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語尾になる。しかし、語尾以外は津軽弁である。あるいは極端に戯画化されている。これは
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笑うところなので、目くじらを立てては行けない。
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 それ以外の人物は、襲われる住民を除けば基本的に標準語である。
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 これはしょうがないことだ。サービスエリアは青森全県。まさか青森市付近の津軽弁で通す
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わけにもいくまい。司令官とか秘書には威厳も欲しいから、標準語の方が効果的だ。
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 そうは言っても、メンバーの日常会話では、「はばげる」などの津軽弁が時々現れる。ある
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意味では、地域における方言のポジションを正確にあらわしているとは言えるかもしれない。
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 まぁ細かく言えば、イカブルーが大阪弁なのは設定だからいいとして、年寄りの筈のイタコ
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ブラックが疑似方言であるのは気になる。
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 5人の戦士は、青森県内各地の県立戦隊支部の精鋭なのだから、各地の言葉で通しても
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面白かったと思うのだが、役者の問題もあるし、それは無理な注文か。


 話は変わるが。
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 秋田出身の後松(うしろまつ)君といえば、ニューヨークメッツからダイレクトにスカウト
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された高校生として一躍有名になった。彼の場合、甲子園に行ってない事が幸いし、日
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本のスカウトの網に引っかからなかったようだ。
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 他にも二人ほどいたようだが、この後松君を東京の TV 局が取材して、日曜夜のゴー
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ルデンタイムに紹介した。
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 その中で、「秋田の『じぇごたろ』が、世界の舞台で活躍」というような表現があった。後
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半はうろ覚えだが、「じぇごたろ」と行ったのは確か。
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 「じぇご」は単体でも使い、元の形は「在郷」で、意味は「田舎」である。「じゃご」とも言う。
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 で、「じぇごたろ」は「在郷太郎」の訛りで、意味は「田舎者のあんちゃん」であり、馬鹿に
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するときに使う言葉だ。基本的には本人のいるところで使っていい表現ではない。
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 この表現を使おうと思ったのが誰かは知らないが、取材を受け入れた秋田衆であると
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は思えない。「こういう人をなんというのですか」と聞かれたのに「まぁ、『じぇごたろ』という
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言い方もありますかねぇ」と、ニュアンスの説明抜きで答えた、ということは考えられるか
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もしれない。
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 いずれ、ネイティブにチェックをうけたら、こういう表現が採用される事はなかったは
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ずだ(*1)


 メディアに乗った方言の二つのパターンを取り上げた。
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 かたや、ネイティブの取捨選択。
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 かたや、部外者の選択。
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 別の見方をすれば、知っている言語知らない言語
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 知らないものに対しては、もうちょっと繊細に扱って欲しいものである。


 なお、個人のものらしいが、アオモレンジャー(*2)に関する Web ページがあるので、参考に
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して欲しい。



*1:本人が自虐的に、あるいはふざけて言ったのかもしれない。いずれ、番組内でそうい
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 う説明はなかったから、抗議の電話が行ったのではないかと推測する。
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  取材したのが系列の地元局だとしたら、なんでそんなことをしたのか、俺の想像力の
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 範囲を超える。
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*2:「アオモ」と呼ぶのが通らしい。



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第67夜「L」

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