Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第41夜

調査したいこともうひとつ



 もう一つ忘れていた。これは最近気づいたことだ。

 それは、「来て」の発音。
 そもそも、秋田弁では「来て」とは言わない。「来てけれ」か「」になる。ここで言うのは、標準語の「来て」である。
 俺の感覚では、秋田では、「来て」は“khte”という感じの発音で、息は出るが、「き」は母 音を伴わない(無声化という)。母音がないのだから、「き」にアクセントが来るわけはなく、 「き↑て(↓ください)」というように「て」にアクセントが来なければならない。
 ところが、最近これをはっきり“kite”と発音、しかもアクセントが「き」にある例をよく聞くのである。俺が聞いた範囲では、子供(主に幼児)とその親である。「こっち↑来↓て」とか「来↓てごらん」という場合に聞かれる。
 勘のいい人なら、オヤ、と思うかもしれない。これには、関西方言風の響きがある。実際に声に出してみるとわかりやすい。関東の音韻構造からは逸脱するパターンなのである。
 特徴として、前に挙げた「こっち↑来↓て」「来↓てごらん」の様に、標準語風の表現の中に現れることが言える。秋田弁の「来てけれ」では「き」にアクセントが来ることはない。無理に「き」にアクセントをおいて「来てけれ」というと「切ってけれ」と誤解される可能性が高い。
 そして、子供とその親の例しかない、というのも特徴であるかもしれない。この辺り、TV 番組の影響も考えられるのだが、どうだろう。

 これについても @nifty の<日本語フォーラム>で聞いてみた。
 秋田はあまり無声化しない地域だから「来↓て」でいいのではないか。
 と
「来↓る」は本来「く」にアクセントがあるが、無声化をおこす地域ではアクセントがずれる場合がある。そのため「き↑て↓ください」の様になるのだが、最近は、若い層を中心にアクセントの移動が起こらないことが多い。
 の 2 つの意見があった。前者は『全国アクセント辞典(平山輝男編、1973、東京堂出版)』、後者は『NHK 編 日本語発音アクセント辞典 改訂新版』を典拠としてあげている。

 前者の意見は、俺自身の感覚とは食い違う。尤も、俺はあちこち転居した関係で、方言の面から見ると生っ粋の秋田衆ではないから、この感覚自体、どこまで信用できるのか、という問題はある。
 後者は、子供とその親、ということで「若い層」には合致するのだが、その間の層の例を聞いたことがないのでちょっとばかり得心がいかない。尤も、これだって、そもそも中高生との接触が少ないので断言できない、という弱みはある。

 あぁ〜っ、もうイライラする。


音声サンプル(.WAV)

来てけれ(16KB)
来てください(本来の標準語形)(13KB)
こっち来て(新しいと思われる発音)(14KB)
こっち来て(本来の標準語形)(15KB)
来てごらん(新しいと思われる発音)(13KB)
来てごらん(本来の標準語形)(15KB)


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