Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第26夜
人それぞれだけど
人にまつわる、というか、人を形容する表現について考察してみようと思うが。
「あの方は大変に立派な方で私は人生の師として仰いでおります」という話をするのと「あいつは最低だね。何とかしてくれよ」という話をするのと、いったいどっちが多いか。
自分の胸に手を当てて考えていただければ自明のことだと思うのだが、圧倒的に後者であろう。そうでしょ? ね?
方言は生活の言葉である、という原則に立脚すると、人を馬鹿にしたり罵倒したりする表現は山ほど出てくる。
だから、ちょっと及び腰である。実は。
「よくたがり」あるいは「よくたがれ」。
「欲」に「たかられた」状態を指すのだと思う。ちょっと標準語の「たかる」とは意味が違うような気もするが。
「欲張り」というよりは、「強欲」の方がぴったりする。子供がおやつを一人占めにしようとする程度では「欲たがり」とは言えない。
この後に「な」や「だ」をつけて修飾語として使うこともできる。
「おが 欲たがれだ ごど するがら 罰あだったんだ (あんまり強欲な真似をするから罰が当たったんだ)」という風に。
「はんつけ」「はじけ」。
「はじく」からの連想で容易に意味は分かると思う。「仲間はずれ」だ。
多分、子供の間で使われる表現だと思う。
「社内いじめ」だの「パソハラ」だのが大流行の昨今だが、大人が自分のこととして使っているのを聞いたことはない。
「ばがけ」
そのものズバリだから、標準語形は割愛。
ただ、わからないのは「け」。
まさか「気」ではあるまい。
「*アホケ」という単語はないし、仲間が見当たらないので追求できない。
そう言えば「ばかたれ」の「たれ」も不思議だなぁ。
「えふりこぎ」。
「いい」「ふり」を「こく」と分解したらわかるだろうか。「見栄っ張り」とか「ええかっこしい」という意味だ。
聞くところによると、秋田県は、県民一人当たりの新車購入台数が日本一なんだとか。
こっちで普通に見かける車が、実は全国的に見ると売れ行き不振だという話を聞いて驚いた、という経験もある。
「ひやみこぎ」「せやみこぎ」。
発音のせいか二説ある。「脾」か「背」が「病んでいる」ふりを「こく」ことをいう。
病気のふりをして何もしない、つまり「無精」「面倒くさがり」ということだ。
そう言えば、秋田衆によって、あるいは秋田で、全国に見ても珍しい革新的なことが行われた! という話はあまり聞かない。
「かたぱりこぎ」。
「肩」が「張って」いる状態。「意地っ張り」というか「強情っぱり」というか。
「えふりこぎ」「ひやみこぎ/せやみこぎ」「かたぱりこぎ」。
秋田衆は、この「三こぎで駄目になる」という言葉がある。
秋田の未来に幸荒れ、もとい、幸あれ!
音声サンプル(.WAV)
おが 欲たがれだ ごど するがら 罰あだったんだ(33KB)
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