先週はエッセイだったが、次はマンガ。
佐藤両々氏の『
あつあつふーふー』を取り上げる。
氏のマンガで最初に読んだのは『
そこぬけ RPG』という作品。ゲーム制作会社が舞台で、新人が職場で全身タイツを着せられ、下僕ならぬ「ゲボキュー」と呼ばれる、という設定が好きじゃなくて、第一印象はよくなかった。
その後、『
わさんぼん』という作品を読んだ。これは京都の和菓子屋に東京出身の職人の卵が弟子入りして、という話。ストーリー運びが非常に丁寧な感じがして評価が逆転した。会話はもちろん京都弁なので取り上げようと思っていたのだが、買ったはずの第一巻を紛失してしまって断念。
『あつあつふーふー』の舞台は広島のお好み焼き屋さん。主人公は、そこの看板娘、玉名(店の名前も「たまな」)。
ところで、MS-IME の辞書に「玉菜」が入ってないんだが。
広島でお好み焼きと聞いて気になるのは、「広島焼き」「広島風お好み焼き」という呼び方はアリなのかナシなのか、ということ。
解説に寄れば、「人による」。まぁそうだろうね。佐藤氏は広島出身らしいのだが、アシスタントが「広島風」と言いかけては訂正、と気を使わせてしまっている、というようなことがあとがきに書かれている。
玉名は、恋心を抱いている同級生が大阪の大学を受験することを知り、「
ほいじゃそばいれんね」と口にする。これは「蕎麦」と「側」をひっかけたくすぐりで、「近くにいることができない」と解釈した男子生徒がドキっとすると、玉名は「
混ぜ焼きじゃね」と続ける。大阪のお好み焼きは記事と具を混ぜて一気に焼くが、広島では生地を焼いた上に具を載せていく「重ね焼き」だ、ということを踏まえたエピソード。
メモを取りながら読み返してみて、最も多かったのは、形容動詞の「
〜な」。
例えば「
心配なのぅ」は「心配だなぁ」ということ。「
〜のう」は広島に限らずよく聞く形だが、これに「心配な」が直につながるのが独特。メモから拾うと「
有望なじゃろ」「
好評なけ」などなどいくらでも出て来る。
これのややこしいのは、「
な」が「なし」と解釈されてしまいかねないこと。
例えば「
元気なしね」は「元気がない」という風に聞こえるが、これは「
元気だしね」。同様に「
近くなし」は「近くない・遠い」ではなく「近くだし」。
これは形容詞類だけでなく、名詞や節にも適用される。「
学生なし」「
モテとるみたいなわー」「
喋らん人なし、一人っ子なし、スマートなし」という言い方が拾える。
が、ここで気づく。これ、形容動詞語尾の「な」ではなく、「だ」が「な」になってるのではないか。
上の「
元気なしね」が典型だが、標準語訳するとことごとく「だ」が出て来るのがその証拠。そう考えると、「形容詞類だけでなく、名詞や節にも適用」なんて難しいことを考えなくて済む。
“ai”の音が“aa”になる。
尤も、二例しか拾えていないが、まず「無い」が「
無ぁ」になる。「
なんでもなぁ」「
そがな香りはここにはなぁ」というような表現があった。
また、「〜まい」が「
〜まぁ」になる。「
似合うまー」「
勉強になるまぁ」という表現があるが、これは「似合うまい。似合わないだろう」「勉強にならないだろう」という意味。
だから「
負けとるまぁ」は「負けてる+まい」なので、「負けてはいないだろう」という意味である。
これは逐語訳が可能だが、「
仕事中はいけまー」「
食べにゃいけまー」というような形もある。「仕事中はいけないだろう・だめだろう」「食べなければならないだろう」である。
規則性が発見できなかったのが、可能の否定、「
〜できない」というもの。
「
立てれんけど」「
離せれん」という表現があるのだが、前者は「ら」が脱落してるのかとも思えるのだが、後者がちょっと。同じかと思うんだが、そもそも「離せる」が可能動詞なので、標準語では「離せない」で「離すことができない」という意味になるから、この「
れん」がわからん。あるいは、一段動詞には「れん」という規則なのかもしれない。この系統では「
外せれん」という形もあった。
あと、一本のエピソードで (言い忘れていたが、これは4コマ漫画である) 「
行かれん」「
行けれん」「
行けん」が次々に登場した、というケースもある。この違いが判らない。発話はすべて玉名の友人たちなので、年齢差ではないと思う。性差かもしれないが、そもそも、その玉名が「
行かれん」と「
行けん」の両方を言っていて、部外者としては困惑するのみである。
というわけで、つづく。
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