Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第971夜

おてんばラブ (前)



 また「妄想ニホン料理」。  この春から月一放送になったのは知ってたが、司会が栗原類からムロツヨシに替わったのは知らなかった。
 前は週一だったから放送回数激減だけど、夜中からゴールデンに移ってるんだよね。まぁ、手間がかかりそうな感じだし、じっくりやれて却っていいのかもしれない。

 お題の一は金沢の「てんばおくもじ」。
「おくもじ」が女房言葉であろう、というのは見当がついたのだが、俺の知ってる「くもじ」は酒のことだから、ちょっと自信なかった。
 デジタル大辞泉で調べてみたら、「茎漬け。漬物」「還御」という意味もある由。今回は「漬物」なわけ。
 前にも書いたかもしれないが、「ひもじい」「しゃもじ」など「〜もじ」で終わる語は大方、頭文字だけを取って婉曲表現した、女房言葉だと思って間違いない。ところが、意味を担うのが一文字になってしまうもんだから、今度みたいに、一つの語が全く関係のない複数の意味を持ってしまう、ということが起こる。それはこれに限らず、省略形・短縮形の運命。
 さて、「てんばおくもじ」のヒント。
1. 「てんば」とはおてんば娘のこと
2. 手間と時間がかかるが包丁は使わない
3. 保存食をふんだんに使って作る
 相変わらず当てさせる気がない。1. のヒントで娘を入れたりしたらどうするんだ。*1 デジタル大辞泉によれば「お転婆」は当て字で、語源不明らしい。

 挑むのは、唐津の料亭旅館。
 唐津の紹介映像で、緑のベルトがずっと続いてて、「なんだこれ」と思ったのだが、「虹ノ松原」らしい。大したもんだ。
 キーワードの一、「おてんば」については、エビを素揚げした時に跳ねる様子を想像。なるほど。エビの殻は手で剥けるので、2. のヒントにも合う。
 保存食としては切り干し大根。「かんころ」と言うらしい。

 今週は大辞泉祭りになるが、それによれば「かんころ」は「(西日本で)サツマイモの切り干し」「(北九州付近で)大根の切り干し」とのことである。五島列島には前者を使った餅があり「かんころもち」と言う由。
 想像だけど、「かんころ」って製法、つまり「干したもの」って意味なんじゃないのかな。地域によってそうやって食べるものが決まるので、材料の情報は単語からは落ちる、ってことなんじゃないだろうか。
 西日本、とのことだが愛媛県のサイトでも郷土料理として紹介されている。ここで「かんころ」は「鍋の中で木杓子で練り炊きするときに発する音からこう名づけられたといわれています」とある。とすると、「干したもの」を指す、という俺の想像ははずれということになるのだが、切り干し大根にはこういう製造過程はないし、そもそも、練るのは餅を作るとき、さてどういうことなのかしらん。
 板さんはこの旅館の将来の大将らしいのだが、「結構不安かっちゃけど」と言っているのが興味深い。唐津弁なんだろうね。あと、女性の「持ってきうか (持ってこようか)」という表現もなかなか。

 もう一組は、イカでトライ。これも、上下の分解では包丁が不要。でも分解した後どうするんだろう、と思ってたら、なんとそのまますりつぶし始めた。さすがに無理があるだろう、と思ってたら、案の定、すり鉢を破壊してしまった。だが、これが怪我の功名で、試食の時には、すりつぶせたところと、残ってしまったところが混在してなかなか面白い食感になったとのこと。
 お転婆は、タケノコで表現。たぶん、グーンと伸びるのをそう表現したのであろう。
 保存食は高野豆腐。
 こちらは、オフィシャル ブログレシピが載っている。妄想の方のレシピが載るのはいい試みだと思う。

 正解。
 お転婆なのは、菜の花。その若いところを摘んで塩もみにして漬けるのだが、もみが足りないと漬けている間に花が咲いてしまったりするそうで、これを「お転婆」と表現している由。
 同じく NHK だが、「健康フェア」というイベントが川北町に来た時にやはりこの「てんばおくもじ」が紹介されたとのことで、記事がある。
 いろいろ調べると、菜の花と言うのは省略しすぎのようで、上記の記事でも「この辺りで『こな』と呼ばれる『茎立ち菜』」と書かれている。

 というわけで前篇ここまで。来週は、唐津の「だぶ」。




*1
 似たような与太で、「ひよこ (時々、東京土産と間違われる福岡のお菓子) にひよこは入ってない」とかいうのを思い出す。もちろん、シーザーサラダにシーザーは入っていない。
「ひよこ」が東京土産と勘違いされるのは、東京に拠点があり、東北へのお土産として浸透したから (
吉野堂のホームページ)。()



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