Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第968夜

バスで肥後 (後)



 熊本の金龍堂で買った『熊本原人』を頼った熊本弁の話、後編。

 金龍堂まるぶん店は、奥に熊本関連のコーナーがある。「コーナー」とは言うが、田舎の個人商店だったらこれくらいの本屋もあるぞ、っていうほどの広さ。そこに「熊本関連」の本が詰まっている。
 わざわざ鍵かっこ付きで「熊本関連」と書いたのは、単に地元出版社の本が並んでいる、というだけではないから。例えば、入ってすぐのところには夏目漱石の本が並んでいる。これは、夏目漱石が旧制五校 (今の熊本大学) の教師をやっていたからである。
 小説、紀行文は言うに及ばず漫画も本棚で唸っている。「バガボンド」“SWAN”“ONE PIECE”「あさりちゃん」「秘密 -TOP SECRET-」「仮面ライダー Spirits」 (すべて作者が熊本出身もしくは在住歴あり。「バガボンド」の宮本武蔵は晩年、熊本に住んでいた) がほぼ全巻揃いで置いてある。
 子供向けの歴史マンガで数十冊の全集があるが、そこから加藤清正はじめ熊本ゆかりの人の奴をピックアップ、書店独自のパッケージで売っている。
 棚を細かく見ていくと、官能小説まであるというから徹底している。
 圧巻の一言に尽きる。

 方言に戻る。
 熊本弁でよく「はい」を耳にする。この本でも「来てはいよ」というような表現が見える。文脈から「ください」であろう、という見当がつくが、日本語ではハ行とサ行はよく入れ替わるので、「ください」→「くだはい」→「はい」という変化をしたのではないだろうか。
がまだす」は有名な単語か。雲仙普賢岳の災害記念館が「がまだすドーム」という名前。「がんばる」ということで、色んな店舗、施設名に使われているようである。これは、不動明王の「降魔 (ごうま) の相」が変形したものとしているが、NHK の「気になることば」でも同じことを書いている。たまに「我慢を出す」と説明しているのを見かけるのだが、「我慢」を「出す」というのがどういう意味なのか分からない。「我慢」自体はもとは仏教の用語で、自分を偉いと思う高慢な心を言うそうだ。その頑なさが現在の意味に転用されたという説明があった。
 さて、この本を読んで一番驚いたのは、「足手荒神 甲斐神社」について書いてるページ。ホームページの「授与品」のところを見てもらうとわかるが、ここの絵馬は手や足の形をしている。で、本のイラストでは、若い女性が足の形をした絵馬をもって「これに書くんですね」と聞いているのだが、氏子と思しきおじいちゃんが「んだ」と答えている。
 熊本でも「んだ」って言うんだ!
『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』では、秋田県外の使用例があると書いているが、せいぜいが北関東で、九州まではとても届かない。
 山鹿市の大宮神社で行われる山鹿灯籠まつりでは、よへほ節という民謡に合わせて女性が練り歩くらしいのだが、この「よへほ」がまた不思議な響き。説明の記事がほとんど見当たらないのだが、辛うじて「酔へ、ほー」ではないか、という記事を見つけた。「ほー」は人に催促するときの間投詞らしい。つまり、「飲め飲め」と言ってるわけだ。
 あさぎり町で行われる「地蔵出し踊り」では「みーしゃっしゃい」という掛け声があるらしい。これはあさぎり町の記事によれば「見てください」だそうな。

 方言の話、ここまで。
 この本で紹介されているうち、以下の三つは見てみたいと思った。
・海の上に立っている津奈木町の旧赤崎小学校
・二つの崖に挟まれて落ちない巨岩「免の石
石の風車
 日程的にもう難しかろうけども。

 熊本城は大変に見晴らしがいい。
 帰ってきて調べてみたら、どうやら周囲の建築物に規制がかかっているらしい。それは大事だと思う。前に名古屋に行った時、駅ビル (というのか知らんが) から名古屋城が見下ろせてしまってちょっとがっかりしたことがある。
 天守閣からはかすかに阿蘇の噴煙も見えるし、目を下に転ずればくまもん
   
 先週書いた物産館にはくまもんグッズもいっぱいあったが、くまもんの絵が載ったものってたくさんある。食品なんかは全国向けに出てるから、宮崎はもちろん、秋田のスーパーでも見かける。
 そうするとありがたみが薄れる感じがある。「ここでくまもんグッズをお土産に買っていっても、熊本に行ったって証拠にはならなないんじゃないか」と思って何も買わなかった。まぁ、本当の「グッズ」は熊本に来ないとないのかもしれないけど。

 次はどうすっかなぁ。
 9 月の連休にどっか行くか。



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