第 961 話にひっかけて「黒い」、または色彩で行ってみようと思う。
が、初めに言っておくと、あんまり広がらない。
何度か書いた通り、色の名前には俚言形がないからである。いや、まだ断言できるほど調べたわけじゃないのだが、今のところ一つも見つかっていない。
色について整理しておこう。
厳密に「色」を表している単語は、
白黒
赤青の四つだけである。それ以外は「
灰色」「
橙色」を筆頭に、「あの物体と同じ色」という表現方法で、「色そのもの」を表しているわけではない。
もっと言えば、
赤と黒は明暗、
白と
青は鮮やかさなんだそうで、この四語すら転用だということになる。
*1
だとすると、「○○色」という形式の場合に「○○」の部分に何を持って来るか、という点については地域性が生じる可能性はある。
ということで見つけたのが「
ぶんず色」。福島で言うらしい。具体的には、「泳いでて体が冷えたときの唇の色」「内出血したときの肌の色」だそうである。「
ぶんず」はどうやら「葡萄」らしい。確かに、ヤマブドウの濃い紫はそれっぽい色である。例えば、
この辺が詳しい。
この形で思い出したのが「
どどめ色」。
Wikipedia の「その名前は知られているが正確な定義のない色」という解説が可笑しい。確かに、単に「きれいじゃない色」という程度の意味で使われることもあるようで、控えめに言ってもニュートラルなニュアンスで使われることの少ない語のような気がする。「ドド」という音のせいだろうか。ググると、色名として使われるというより、アカウントやハンドル、ブログタイトルとして人目を引く使われ方の方が多いような気がする。
どうやら「
ぶんず色」と同じような範囲をカバーしているようなのだが、細かくは地域差があるらしい。
内出血だが、「
黒血 (くろぢ)」という地域がある。やっと黒に戻ってきた。
確かに、黒っぽくも見える。この辺の色に関するあいまいさが、「
どどめ色」が「その名前は知られているが正確な定義のない色」と言われて呼ばれてしまう理由なのかもね。
このまま 961 話を続けてみる。
琉球大学の、宮古島の方言の音声データを紹介しているページで「黒い線香」という例文があったので、「は?」と思って調べてみたら、黒い線香があるらしい。それも板状になっていて、適宜、割って使うんだそうだ。「
平香」と呼ばれる由。「ひらこう」だろうな、と思ったが、ご当地の発音はきっと違うよな。
来週以降、
もぐら氏の「うちのトコでは4」を取り上げる予定なのだが、それによれば、普通、春と聞くと
ピンクとか
緑とかを連想すると思うが、北海道では「黒」を連想することがあるらしい。
なぜかと言うと、真っ白な氷が割れて海面が顔を出すから。これはなかなか面白い話だと思う。
「
黄色い」を「黄ない」という地域がある、という話は
前にしたことがある。大豆の粉と砂糖を混ぜた調味料を「黄な粉」という、というのもそこで触れたが、「うちのトコでは4」では、鹿児島で「黄身」を「
きなみ」と言う、というのが紹介されている。福岡辺りでも言うらしい…って、これも
前に書いてるね。
これ、レシピ関係のページでも散見されるので、ひょっとしたら「気づかない方言」か? と思ったが、「
きなみ」で漢字変換しても出て来ないので気づかないってこともないような気がする。
話し言葉ならありうるが。
森口博子 (福岡出身) が料理番組で口にした、という記事もいくつかあった。
「富山ブラック」というラーメンがあるそうだ。醤油が多くてスープが黒っぽいらしいのだが、それが人気になったことで、富山県内のいろんな地域でいろんな色のラーメンを作って、「カラーラーメン」ってことで売り出しているのだとか。
なんじゃそりゃ、と思ったが、豚骨は
白いし、辛くすれば
赤だし、ミソは
茶色だしってことで、そう変でもないのかもしれない。
緑も辛いのでは、と思ったがこれはホウレン草とのこと。
もう一つ食い物のネタを挙げると、奈良の
一部では炊き込みごはんのことを「
いろごはん」というらしい。確かにね。子供が好きそうな表現である。
と、色々調べてきたが、色名の俚言形も、色名に俚言形がない理由もやっぱり見つからなかった。
*1
白と黒ではなく、赤と黒。「赤」は太陽が出ていて明るくものがはっきり見える状態、「青」はものがはっきり見えない状態。夜空の色は真っ黒ではなくかすかに青いことを連想するとよい。(↑)
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