「
食べ物 新日本奇行」と『
全日本 食の方言地図』のふんどしを借りた文章。後編。
もうちょっと言葉の問題。
聞くところによると、牛蒡を食用にしているのは日本人だけなんだそうである。さすがの中国人にとっても、薬になることはあっても、食材ではない、と聞く。
同じように、欧米人は海藻類を食べない。
だが、ロンドンでも昆布が売られているという。それはなんという名前かというと、“konbu”なのだそうだ。
英語にも“kelp”という単語はあるのだが、“kelp”をスーパーに並べても誰も買わないだろう、という意見があった。
この辺、香辛料でしかなかった時代には「ターメリック」だったものが、薬効成分が注目されるようになったら「ウコン」になってしまったのに似ている。
時期的にぴったりなのが「
春告魚」。
山形は新庄の人の、ホームページへの投稿で (本には載ってない)、雪溶けごろになると最上川をさかのぼって運ばれてくる、ということでニシンのことをこう呼ぶらしい。
が、「春告魚」を検索エンジンに突っ込むと、ニシンだけでなく、メバル・アブラメ・イカナゴ・サワラと色々ある。残念ながら「春告魚」は、漠然としすぎている。
その人の投稿でも、「
カド」という呼び方は触れられているが、秋田でも、ニシンは「
カド」である。
前に「
きない」という形容詞を紹介した。岐阜から愛知の一部、あるいは九州北部で使われる。「
黄ない」と書き、「黄色い」ことを意味する。
なんじゃそりゃ、という人もいるかもしれないが、大豆をすりつぶした粉と砂糖を混ぜた調味料をなんと言うかを思い出してみるといい。その「な」はどこから来たのだろうね。
これも投稿だが、卵の「黄身」のことを「
黄な身」という地域があるらしい。
完全に食い物の話を無視するとアレなのでちょっと触れる。
野瀬氏は、食い物が他地域へ伝播するときに変容する、ということに何度か触れている。氏は福岡の出身らしいのだが、チャンポンのバリエーションには、不満を抱きつつも関心があるようだ。
それについては、俺も前に似たようなことを感じたことがある。
昆布だしのキリタンポを食わされたときだ。
キリタンポは鶏ガラでだしをとるんだよ。比内鶏の、とか聞いたことないか? 割と濃厚なんだな。それをあんなあっさりとやられたんでは、食った気がしない、というものだ。
この本で取り上げられている、納豆に砂糖、だが、俺は見たことも聞いたこともない。ちょっと食ってみたいという気にもならない。
ちなみに俺の感覚では、トマトに砂糖はかけない。
野瀬氏は、秋田の「
ばばへら」を実体験しに来秋している。
10 月に。
サーティワンとかとは違って、外で売ってるの。10 月にいると思うか? 日経秋田支局の職員が、今日はいる、とか報告したらしいが、野瀬氏が来たのはその翌週。10 月の一週は大きいぞ。
地域、というところに関心を移すと、会津若松の食堂の人。
カツ丼にもさまざまなバリエーションがある。刑事の取り調べ、とかいうとステロタイプ的に思い出されるアレ
*1は卵でとじたものだが、本当にカツだけが乗っているもの、キャベツまであるもの、と枚挙に暇がない。それを追って氏は会津まで行ったわけだが、店のありかを、別の店の人に尋ねている。
それだけなら、旅行者だからそういうこともあるだろうね、って感じだが、尋ねられた方は、自分が思い浮かべた店に電話をかけて、氏が目指すものがあるかどうかを確認しているのである。大したもんだ。
逆のことには我々だってよく出会う。で、気を悪くするのだが、これを非難すると、客商売や観光業の人たちから「たまたまでしょ」という弁解込みの反論が返ってくる。
だが、自分がそういう扱いをされたらどうするか、ということをちょっと考えてみればわかる。観光に行って、地元の人にものを尋ねたら、木で鼻をくくったような応対をされた。どうする?
二度と行かないだろう。いや、それはたまたまで、実はもっとすばらしいことがあるのに違いない、と思ってわざわざリトライするか? だって、ほかに魅力的な観光地はいくらでもあるんだよ。
ビジネスではよく、「幸運の女神には前髪しかない (こっちに向かってくるときに掴むしかない。すれ違ってからでは掴めない)」ということが言われるが、観光、客商売だって全く同じ。一度失敗したら、その観光客は二度と来ないし、帰ってから友人親戚にその体験談を話して回るんだ、ってことは肝に銘じておかなければならない。
話が逸れてるなぁ。まぁいいか。
B 級グルメで気になってるのは、長崎名物トルコライス。
ドライカレーにカツとスパゲッティが乗っている、という、高カロリーを絵に描いたような食い物。
でも食ってみたい。
でも、寄る年波には勝てず胃が弱くなっている今日この頃、食いきれるかどうか不安。
思い出したのがあるので書いちゃう。
香取慎吾が冷凍ギョーザの CM をやっている。そのキャッチフレーズが確か、「あったかいご飯とギョーザ、ほかに何がある?」。
「何がある?」ではないだろう。言いたいのは、それ以上は何もいらない、てなことだろうに。
というわけで、いつにもましてまとまりのない文章となった。
「
食べ物 新日本奇行」は、本が出た後も延々続いていて、実は方言にかかわるネタも少なくない。そういうデータだけを抜き出しても面白いような気がするんだが、相手は、著作権にうるさい新聞社というところ。ここでも、「
食べ物 新日本奇行」よりも下のページへのリンクは禁止、ってことなのでやるわけにはいかない。
*1
自白の誘導ということになるので、今は行われていないらしい。(↑)
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