Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第940夜

いもこじる


 久しぶりに、HDD レコーダーが拾った番組から。
 ちょっと前に「にほんごであそぼ」もあったんだけど、量が少なかったもんで見送っていた。
 今回は、NHK 教育テレビの「ハートネット TV」。見たことなかったが、福祉分野の番組らしい。今回はお年寄りが主役。
 山形県河北町で公開収録をしたようで、その時の分。

 会場は、「サハトべに花」。何かと思うな、この名前は。
「べ」はひらがなとカタカナがそっくりだから、「サハト」なのか「サハトベ」なのかパッと見てわからない。しかも、どっちも日本語の語彙にない。「山形だから紅花だろうか」と想像してやっと「サハト/べに花」だってことがわかる。
 アラビア語で「広場」という意味らしい。なぜアラビア。尤も、フランス語だろうかドイツ語だろうが、「なぜ」という問いは立てられるんだが。

 年配の夫婦が二組登場する。最初は後藤誠雄夫妻。
 この人、このあたりの農業界では有名人らしい。「秘伝」って豆があるらしいんだが、それでググると第一人者として名前が出てくる。
 生年月日を言うのがお約束らしいのだが、「7 月」を「なながつ」と言っていた。秋田にもいるな、そういう人。
 元気の秘訣は「うない」。これは「耕す」という意味の「うなう」という動詞の連用形が名詞になったもの。
 畑界隈では「畝」って単語もあるし、その辺かな、と思ったのだが、ふくしま県の方言辞典<南達弁>で「耡ふ」という古語があることを知る。
 大辞林では「耡ふ」を「田畑を耕し畝(うね)を作る」と説明している。耡ったものが畝なのであろうか。
 宮城名物と言われるずんだを、そこらあたりでは「ぬだ」と言うらしい。Wikipedia のずんだ餅のページでも「ぬた」という形があることに触れられている。

 もう一組は矢作春樹夫妻。
 この人は方言研究家で、本も何冊か出しているらしい。
 長生きの秘訣は「おしぇる」。これは「教える」ということ。夫婦とも学校の先生だったそうだ。
 なんで方言研究の道に進んだかという質問に対して、英語も数学も苦手で、できるのは「自分の言葉きりなかったわけね」と答えていた。この「きり」も独特。もちろん、「きり」自体は標準語にもある語だが、こういう使い方はあまりしないはず。秋田でも言う人いる。
 改まった場面で出てくることが多いような気がする。まさに今回がそう。ひょっとしたら「気づかない方言」かもしれない。

 次、山形弁コーナー。
どさ」「ゆさ」は有名で、触れるのも恥ずかしいくらいなんで、いいや。
あべはー (さぁ行きましょう)」も出ていた。番組では「べはー」だったが、秋田では「はー」となる。
わらわらままけはー (急いでご飯を食べなさい)」はどっかで聞いたなぁ。渡辺えり子あたりが何かで言ってたような気がする。
 ググってみたら、そういう食材 (つか、ご飯に乗っけて食う調味料) があるらしい。紹介している記事はたくさんがあるが、完全に商品名だと思っている人も散見される。

 郷土料理に触れたとき「いもこじる」と言っていた。「芋子汁」と書く。「芋子」というのは里芋のことなのだが、秋田では「いものこ」と言う。
 にしても旨そうだった。

 実は、ほかにもたくさん、アンテナに引っかかる表現はあったのだが、緊張して普段とは違う、間違った表現をしてしまっているのか、方言なのかが判然としないものが多かった。怪しいのはここで紹介することは避けておく。

 東北はもうとっくに初雪が降ったそうだが、実は宮崎も今週は寒かった。最低気温 2 度である。雪が降らずカラっと寒いのは、なんだか東京の冬を思い出させる。俺の感覚では東京の冬の方が寒かった、という記憶もあるので、この冬についてはちょっと不安である。



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