Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第936夜

Ich lerne Deutsch.


 放送大学の科目履修生になって、この 10 月で三期目を迎えた。
 一期 (半年) に二科目ずつ受講してきたのだが、これまでに受講した科目のすべてで合格したことに味をしめて、今期は三科目に増やしてみた。
 我ながら大きく出た、という感じはしないこともないが、闇雲に増やしたのではない。選択に際しては前期試験のルールを調べて、参考書持ち込み可の科目かどうかをチェックすることは忘れていない。
 そんな中、ドイツ語入門というのを受講している。残念ながら、持ち込み不可ではあるが。
 ドイツ語は学生の時に、いわゆる第二外国語でやった。ン十年経ってるとはいえ、復習だからなんとかなるだろう、と踏んだ。
 辞書も、いい気になって独英・英独を買った。
 これは、学生当時の記憶によるところが大きい。独和辞典で勉強していて、理屈はおぼろげにわかるけどピンとこない、という項目があった。試しに、と思って独英辞典を引いてみたら、「そういうことか!」と Eureka を叫んだことがあるのだ。なんだかは忘れたけど。つまり、なんの関係もない日本語を経由するより、兄弟である英語での説明の方がわかりやすい、という甘美な記憶による。
 ペーパーバックなので安い、というのもある。新宿の紀伊國屋で千円だった。
 で、授業スタート。アルファベットは全部読めるし、一桁の数字は全部覚えてたし、綴りと発音の関係も大丈夫、ってことで最初の数回は楽なもんだった。だが、活用のあたりから怪しくなる。“Ich bin (I am)”“sie sind (they are)”は覚えてたんだが、なぜか二人称を覚えていない。
 先週はついに名詞の格変化が始まった。一格が主格、二格が属格というのは覚えていたが、三格と四格はうろ覚え、というか、学生当時からうろ覚えだったはずである。かっこつけて、Nominativ/Genetiv/Dativ/Accusativ という語で覚えようとしたせいもあって混乱している。いや、もっと遡れば中学高校の英語の時点で、間接目的語と直接目的語が、どっちがどっちだかうろ覚えだったはず。
 そろそろ予習と復習をしなければならない段階に来ているようである。

 ドイツ語にあって英語にない特徴としてもう一つ、文法性がある。名詞が、男性・女性・中性に分類される、というあれである。
 性別を持ったものであれば、大方はそれに従う。“Vater (父)”“Bruder (兄弟)”は男性名詞、“Mutter (母)”“Schwester (姉妹)”は女性名詞だ。問題は性別を持ってないものや、抽象的な内容の名詞である。「自転車」は男か女か。「空腹」は。「空」は。これはもう覚えるしかない。*1
 ここまでは俺も知っている。だが、こないだの第 5 回で衝撃の事実が語られた。性は地域によって違う場合がある!

 が、よく考えてみると当たり前である。
 方言は何が違うから方言なのかというと、語形、発音、文法などが違うからである。であれば、文法性が違ったって不思議はない。
 だが、文法性はその名詞自身と、先行する冠詞の変化に影響を与える。ドイツ語は語順が比較的自由で、それぞれの語の役割 (たとえば、間接目的語なのか直接目的語なのか) をその形で判別する。それが食い違ったらどうなるんだろう。変化パターンも規則的じゃないから、部外者からするとその混乱具合は想像の外である。

 ドイツ語を公用語としている国は、ドイツのほかに、オーストリアベルギールクセンブルクなどがあるが、スイスもそうである。
 スイス外務省が運営している swissworld.org に言語に関する記事がいくつかある (「国民」のところにある)。ここでは「スイス・ドイツ語」という表記をしているが、それは標準ドイツ語とは大きく違ってもはや方言ではなく、標準ドイツ語は子供たちが学習する最初の外国語だ、というようなことが書かれている。観光局のサイトだからって観光客誘致のための甘い記事だけではないのに感心する。

 上になんの説明もなく「標準ドイツ語」と書いたが、ドイツでは日本よりも各方言の地位は高いそうである。「標準ドイツ語」の規範になった地域でさえご当地訛りが優勢なんだとか。その結果、「標準ドイツ語」の地位は、日本語の「標準語」よりも低く、通じない地域があったりするらしい。
 よく、日本とドイツは似てる、なんてことを言う人がいるが、この辺の違いがどこから生じたのかは興味深いところである。日本人が個を認めないところに求められそうな気はするんだが…。

 もう次の期の話をする。
 放送大学には、「科目履修生・専科履修生」と「全科履修生」という二種類がある。読んで字のごとしで、前者は興味のある科目だけつまみ食いする人、後者は大学卒業資格を得ることを目的とする人である。
 俺は大学はもう出てるので全科履修生ははなから考慮対象外だったのだが、科目履修生の身分は期ごと、つまり受講した科目が終了するごとに一旦、終了する。続ける場合は、言ってみれば「契約更新」をする必要があるのだが、要するに半年ごとに金を取られるわけだ。それがばかばかしい、と思うようになってきた。
 長く続ける場合は全科履修生にする方がお得なのだが、かと言って、修業年限は 10 年が上限なので、年に 4 科目程度では卒業できない。中退することになってしまうのだが、ちょっと財布と相談してみることにする。*2



*1
“Frau”は女性名詞だが、“Fraeulein (娘さん)”や“Maedchen (少女)”は中性名詞である。“Kind (子供)”も中性なので、ガキに男も女もねぇよ、という考え方なのかもしれない。なお、“-lein”“-chen”は指小辞で、これがつく語は中性名詞だそうである。(
)
*2
 中退後に再入学した場合でも以前の単位は引き継がれるので、20 年計画で卒業、という手もなくはない。老後の楽しみにはいいかもしれん。そんな先でもないけど。(
)




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