Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第930夜

スーパーな宮崎弁 (後)


 スーパーマーケットで見かけた宮崎弁の話、後編。
 今日は、画像貼りまくりでお送りする。
 まずは、米。
   
 中央がぼけてるが、これは (コーティングした) 紙だからである。はじめからこういう画質。右と左は見ての通りビニール。
 左側はストレートに「洗わんでいっちゃが」。無洗米なので洗わなくていいことが一目瞭然。この「いっちゃが」は宮崎県民、お気に入りの表現らしく、あちこちで見かける。
 真ん中は、えびのの ひのひかり。「田の神さぁ」と書いてある。豊作をもたらしてくれる神様で、多くは石像なのだそうだ。この辺は、えびの市観光協会の記事が詳しい。「たのかみさぁ」ではなく「たのかんさぁ」だそうだ。
 鹿児島弁っぽい雰囲気を感じるが、それも当然、えびのは熊本と鹿児島に接する場所で旧薩摩藩領である。
 右は方言ではないが、「洗美味米」と書いて「あらうまい」と読む。漢字表記では「研がなくていい」ことが抜けている (むしろ、研ぐ必要があるのか、と思ってしまう) が、読み方としては「洗うまい」であり、かつ「旨い」が隠れている。巧いネーミングだと思う。

 さて、目下、俺の最大の注目の的はこれである。
   
 この写真は霧島酒造の広告 (Palm というフリー誌の 8 月号から) で、宮崎の物産を紹介する文章のタイトルだが、この「地どれ」をはじめとする「〜どれ」という形は方言なのではないか、と疑っている。根拠はもちろん、秋田や東京で聞いたことがないから。
 地名から「青島どれ (漁港がある)」、収穫時刻から「朝どれ」などの表現もある。以下のように、新聞記事になったり、店の名前になったりする。方言だとすれば「気付かない方言」ということになるのかもしれない。
宮崎日日新聞 2014/7/22同 2014/8/12同 2014/9/8同 2014/9/23(宮交シティ内にあったレストラン。閉店)
 ググってみたが、文字だけでは傾向が読めない。いや、百件くらいずつピックアップすればわかるかもしれないが、重複を排除して、となると大変なのでやりたくない。
 そこで、Google Map を使ってみることにした。地図なので施設名、具体的には生鮮食料品を扱っている小売店や飲食店となる。地名型ではダメなのは言うまでもなく、傾向が出そうな語として「朝どれ/朝どり」で見てみる。クリックすると大きな地図になる。
「朝どれ」「朝どり」
 大きなマーカーがあって、それに惑わされないようにしなければならないのだが、「朝どれ」が見つかった赤い点は西日本に多く、「朝どり」はその逆、という風に見える。
 そもそも、用例数が違う。文字列検索では、「朝どれ」が約 250,000 件なのに対して、「朝どり」が約 145,000 件と、「朝どり」は 6 割しかない。それも排除して考える必要があるのだが、「〜どれ」にしろ「〜どり」にしろ、そもそも東日本ではそういう言い方をしないのではないか、という仮説も成り立ちうる。ちょっと秋田を思い出してみたが、地名を用いる場合は、「北浦産」という言い方をするような気がする。

 そういえば、語自体が違う。「〜どれ」は「とれる」で、「〜どり」は「とる」。
「とれる」はおそらく可能の形であろう。なんだか、「特別、何もしなくても収穫できる」というニュアンスを感じる。
 これに対して「とる」であれば、「誰かが収穫してきた」という視点になる。
 南国の穏やかな気候で、自然の恵みが容易に得られるから――というのは考えすぎだろうなぁ。

 というわけで、この「〜どれ」問題は引き続き追いかけていきたい。




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