Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第915夜

てげてげ転勤・移動編



 すべての運送会社に、「秋田−宮崎は距離がある」と言われた。まぁ、近いとは思ってない。
 単身パックはおそらく、原理的には宅配便と同じやり方をするんだと思われる。大きなラックに顧客の荷物を詰め込み、そのラック自体を一つの荷物として扱う。で、送り先に直行するのではなくて、それぞれの会社のターミナルで積み替え、リレーして目的地に到達する。二週間と言った業者は、たまたまそのリレーがうまくいかない配送状況だったのであろう。
 直行便を仕立てることもできるが、その場合、トラック一台と複数の人員が専任になるので値段がはね上がる。実は、最初に別の業者でオンライン見積もりしたときには、80 万という数字が出てきて、文字通りドデンこいだ。オンラインだから概算だろうけど、それにしても、と思ってたがどうもそんなもんらしい。

 人間の移動もなかなかである。新幹線での移動は考えたこともないが、飛行機の場合は、羽田か伊丹での乗り継ぎで、トランジットを含め 4 時間程度かかる。*1
 それはいい。現実に距離があるのだからしょうがない。問題は、九州内の移動である。
 せっかくなので、宮崎を拠点にしてあちこち遊びに行ってみたい、と思った。県庁所在地の駅前に火山がある鹿児島とか、博多の屋台とか、自転車の普及度が低い坂の街・長崎とか。
 ところが、これがまた大変なのである。
 たとえば宮崎から福岡に行く場合、最も手軽なのはどうやら飛行機である。40 分程度の飛行時間で、JAL/IBEX 合わせて一日なんと 13 往復就航している。
 鉄路はどうか、と思ってネットで乗り換え検索をしてみたら、特急で鹿児島まで行って新幹線、ってのが出てきてこれまたドデンした。*2

 ポジションが秋田に似ている。
 前にも書いたが、秋田市は日本海側にあって隣県すべてに背を向けた格好になっている。車だとどこに行くにも三時間はかかる、山形に直行できる列車はない。
 仮に、田沢湖線・北上線・花輪線がなくて (つまり、秋田から太平洋側に行く線路がない)、東北の中心都市は仙台ではなく福島、もちろん「こまち」は走っていないものとする。こうすると、秋田と宮崎はおおむね同条件になると思われる。つまり、宮崎から山を越えて熊本方面に行く路線がないことが秋田との大きな違いなのではないか。
 東北新幹線が早々と青森まで開通していたとしたら、県北は青森から、県南は盛岡からと複数の連結特急が使えることになり、「便利だろ」とか言われて、「こまち」は生まれなかったかもしれない、とか思ったりする。あるいは、山形新幹線「つばさ」の延伸だったかもしれないが。*3

 さて、旅行と方言ということにしようと思っただのが、これまたノイズの出やすい組み合わせである。白状すると、「旅行 AND 方言」でググるのは端から考えなかった。
 ということで、「歩く」に切り替える。
 これには前から気になっているのがあって、確か「歩く」には二種類の言葉があって、意味が違う、という話。高校の時に古典の授業で聞いたんだったか、もう定かではないのだが、そのあたりをはっきりさせようと思った。
 結論から書くと、「あるく」と「あゆむ」である。
 語感から言っても、「あゆむ」にはしっかりした感じがあるが、それに対して「あるく」はニュートラルな感じ。
 調べてみると、「あるく」には「そのあたりをうろうろすること」てな意味がある。これが俚諺形にも現れる。
 長崎から熊本のあたりに「さるく」という語があるのだが、それがまさに「うろうろする」「ぶらぶらする」という意味で、観光や地域振興で、身近な地域を歩いて魅力を再発見しよう、とか、ゆっくり見て回ってください、てなイベントやキャンペーンにこの「さるく」が使われる例が多い。
 近畿には「しゃるく」という形がある。
 この対比でいうと「あるく」は「乗り物に乗っているのではない」というニュアンスを持ってくる。移動手段を示しているだけなので、こうしたキャンペーンには使いづらいわけだ。
 この違いが別の形で出てくるのが、たとえばうわさを広める人について「○○について言って歩く」というような形。この場合、いろんな人に言う、というのが主眼で、その際の移動方法は何でもよい。その辺の人に言いまわる、ということである。
 したがって、茨城辺りでは「あるってあるく」という表現が生まれる。「あゆんであるく」であり、意味は「歩き回る」である。
 秋田あたりでも「走ってあるぐ」てな言い方をする。字義どおりに解釈すると、走ってるのか歩いてるのかどっちだ、ってことになろうが、これは「走り回る」である。
 あーすっきりした。

 新潟や関東北部には「あいぶ」というような形が、関東南部から東海にかけては「あいぐ」という形がある。それぞれ「あゆむ」「あるく」の変化したものであろう。
 津軽には「あさぐ」がある。ちょっとこの変化の見当はつかない。津軽だから秋田の県北でも言うのかもしれないんだが、秋田弁辞典は引っ越しの段ボールの中である。

 上に、新幹線での移動は考慮外、と書いたが、調べてみたら、8 時までの「こまち」に乗れば、東海道・山陽新幹線で博多 (あるいはひとつ前の小倉) まで行くか、九州新幹線で鹿児島まで行くかして、それぞれ特急に乗り換える、という方法で、その日のうちに宮崎駅にたどり着けることがわかった。体力があるうちに一遍やってみても面白いかもしれない。
 食事は駅弁三昧ってことになろうが、全行程 14 時間、途中で飽きそうな気はする。




*1
 今の秋田空港ができたころには、秋田−福岡の直行便もあったのだが。(
)

*2
 「にちりん」「ソニック」という特急はあるが、これが 5 時間強。新幹線利用や高速バスなら 4 時間弱。
 もちろん、どれが一番かは、出発や到着のタイミング、出発地と行先による。(
)

*3
 勝手に九州に当てはめると、博多もしくは小倉で分離する「大分新幹線」は「つばさ」に相当するだろう。もし熊本から宮崎への線路があれば、そこを走らせるのが「こまち」相当の「宮崎新幹線」だが、実際には大分経由で宮崎、ということになるのだろうか。
 ググってみたら、廃線を再活用して熊本から県北部の延岡に入るルートや、八代から入るルート、鹿児島からくるっと回るルートなどのアイディアが見られる。
 この辺りは、北上線経由、新青森経由に相当するか。(
)





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