Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第914夜

てげてげ転勤



 すでに宮崎にいる。新しい部屋はまだダンボールが散乱している。

 日程の決定が急で、十日後に宮崎入りして荷物を受け取ろう、という話になった。慌てて複数の業者に見積もりを取る。
 最初に連絡を取った A 社*1は、「明後日発送しないと間に合わない」と無茶なことをおっしゃる。B 社は、二週間かかる、と言う。もうとっくにリミットを超えている。C 社は、ウェブで「ご訪問のご希望日時を入力してください」とあるので、おぉ見に来てくれるのか、と思ったら、「本日より一週間後の日付をお願いします」とあるので、その時点で落選。
 確かにどの業者も「ちょっと距離があるので」と言ったから、大変な作業だってことはわかるのだが、じゃぁ、荷物を出してからの一週間なり二週間なりの間、俺はどうしてりゃいいのだ。それだけの期間、会社に通いながら引っ越し時期を待つんだとすると、少なくともダンボール一個分くらい荷物をキープしておかなきゃいかんだろう。それは人間が移動するときに別便でってことになるじゃないか。

 尤も、一家で引っ越しする場合は、その間に車でゆっくりと移動したりするのかもしれない。
 車を持っていくことは早々に諦めた。業者に頼むと十万かかる。かと言って自分で持っていく場合、安全性を確保しつつ行ったとすれば、おそらく五日くらいかかると思われる。会社を休めればそれも楽しそうだけどね。
 名古屋からフェリーって手があるようだ。これなら、名古屋まで二日かけて行って夜に出航、朝方に宮崎、ということで、三日で着くと思う。

 最終選考に残ったのは二社。D 社と E 社とする。ちなみに、実際に見に来たのは一社だけである。
 向こうで手配した部屋はワンルームであり、目下 2K 住まい、本棚5本、自転車三台という俺の荷物はとてもじゃないが入らない。それに、こうなると完全に「引っ越し」であり、どこの業者に頼んだところで数十万の額になる。というわけで単身パックにして衣食住メインで持ってくことにした。*2
 電話だけの見積もりだった D 社は、単身パック用のラック一つで間に合う、と言ったが、下見に来た E 社は三つだという。この違いに驚き、改めて洗濯機・冷蔵庫・電子ピアノ・衣装ケースといった大物の大きさを測り、ラックの大きさと比較してみて、一つじゃ絶対に無理だ、と思い、E 社にした。
 E 社の見積もり担当の人によれば、引っ越しする当人の見積もりは大概、控えめになるのだそうだ。特に段ボール箱の数が当初の目算より大幅に増えるらしい。それは実際に箱詰めしてみて実感した。別に D 社がいい加減な見積もりをしたのではなく、俺が言ったことを額面通りに評価しての見積もりだったのだと思われる。*3
 まぁ、そんなこともあるので、Web 割引なんてのも用意されてたりはするが、下見はしてもらった方がいいんだろうと思う。

 金の話はここまで。引っ越しと方言でググってみたら、意外なことに俚諺形が見つかった。
 最初に見つかったのは、島根の「にげる」である。これはよその人が勘違いするだろうなぁ。
 goo の辞書で見つかったのだが、残念ながらほかの記事が見つからない。「引っ越し AND 方言」では、引っ越し先の方言がわからなくて苦労する、なんて記事が山ほど見つかって、俚諺形の記事を抽出するのに一苦労なので、それで見落としてしまっている可能性が高いのだが、それにしても出てこない。ちょっと保留かな、と思う。
 次が「やがえ」。「家替え」もしくは「屋替え」だろうと思われる。高松市のホームページに書かれており、それ自体はまぁいいのだが、「東京では,『宿替(やどがえ)』といっている。」という注記が気になる。
 単純に「宿替」「やどがえ」でググっても、東京方言であるという記事は見当たらない。俺も聞いたことはない。それどころか「宿替え」という上方落語があるようだし、「宿替い」などのバリエーションも含めると関西の人の記事がたくさん出てくる。こちらの注記についても保留としたい。
 次が「やうつり」。「家移り」か「屋移り」だろう。こちらはググるとたくさん出てくる。ざっと見ても、山梨・静岡から熊本と多すぎて、東海から西側、くらいにしか絞れない。あるいは、改まった場面では使われない、という程度の、地域限定とはいいがたい種類の広域方言ではないのだろうか。
 なお、家を新築したときに、それを親類や知人などに披露するための宴会のことを「やうつり」と言う地域もあるらしい。こうなると、はっきりと地域方言である。
 最後、「渡座」。これは「わたまし」と読む。どうやら古い語で、貴族などの転居を言う言葉らしい。現代では丁寧語だが、一般的表現として残っている地方もある、という語のようだ。これも、茨城・長野・長崎と広い。

 にしても、今回は実家に寄生することで搬出から人間の移動までの期間をしのいだが、戻ってくるときは 4〜5 日もホテル住まいってことになるのか?

 運び終わって、搬出が完了したって感じが全くしないのに、我ながら驚く。何せ、本、CD/DVD、頻繁には使わないものがごっそり残っている。
 現在のアパートはそのまま残すわけだが、ちょっと金がもったいないかもなー、という気にもなりかけている。まぁ、ゆっくり考えることにする。




*1
 念のために言っておくが、このアルファベットは言及順に振ったもので、業者の頭文字ではない。(
)

*2
 ふつう、あれも持っていきたい、これも持っていきたい、となるものだが、ここまで割り切ると迷わずに済む。本類を入れた段ボール箱は二箱だけだった。(
)

*3
 結局、ラック二本で済んだ。冬物衣料など、いざとなったら後回しにしてもいい箱というのも用意したし、それでもだめなら、段ボール箱一個二個程度なら宅配便で別に送ればいいや、と思ってたのだが、意外に入るんだね、というのが俺の印象。いや、パズルよろしく係りの人が頑張ってくれたのかもしれないが。
 帰りは三本かなー。(
)





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