Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第882夜

ラーメンと方言の疎遠な関係



 夜は外食、というのが定着して一年くらいになる。
 理由は、しつこいようだが仕事のせいで帰りが遅いから。
 体重面を考えると、カロリーや栄養バランスのコントロールが難しい外食は本来は避けるべきなのだが、晩飯を食ってから時間を置かずに寝るのは、体重の点でも胃への負担という点でも問題である。できれば、仕事が終わったらすぐに食ってしまいたい。いくら準備を短時間で終わらせる工夫をしたところで、家に帰って自分で作ったのと、退社直後に外で食ったのとでは一時間くらいの差が生じる。
 問題は、何を食うか、ってことなのだが、田舎で夜十時に食べられるものってそんなに選択肢はない。俺の行動範囲では、牛丼かカレーかラーメンである。ファミレスもいくつかあるのだが、いい歳こいてオタク雑誌を買うのに躊躇のない俺でも、ファミレスに一人で入るのには抵抗があって、トライしていない。
 というわけでラーメンの話。

 これが意外にない。
 ご当地ラーメンって群雄割拠のはずで山ほどあると思ったのだが、「ラーメン AND 方言」でググってもまったくヒットしない。「AND 方言」というキーワードが悪いのかもしれないが、いきなり企画倒れである。
 そのものずばりの「ご当地ラーメングランプリ」、こないだブースカを大使に任命した「新横浜ラーメン博物館」、Wikipedia のカテゴリ「ご当地ラーメン」を見たが、どうもそれらしいのが見当たらない。
 前にご当地コーヒーについて調べたとき、ちょっと高級イメージがあるせいか、と思ったのだが、ラーメンは庶民的な食べ物だからそんなことはないと思われ、これはちょっと予想外。
 店の名前に方言というのはよくあるようなのだが、今回はラーメンそのものの名前をターゲットにしている。
 例えば麺の茹で加減について「バリカタ」なんてのはもう定着しているから、まったく無縁ってこともないと思われる。探し方が悪いのだろう。これはちょっとじっくり探すべき内容だったかもしれない。

 茹で方だが、Wikipedia の「博多ラーメン」によれば、「バリカタ」よりも固いのを「ハリガネ」「コナオトシ」などとも言う由。前者は文字通り、後者はおそらく「麺についている粉を落としただけ」というような意味だと思われる。洒落ている。
 一方、柔らかいのは「ヤワ」で、「バリヤワ」という言い方もあるらしい。

 話は変わるが、今、上映中の映画『潔く柔く』。この「柔く」がものすごく気になる。「やわい」って表現は一般的だろうか。もちろん、辞書を引けば載ってるけどさ。

 となると、主に博多ラーメンのシステムであるところの「替え玉」も方言ってことになるのだろうか、と思うのだが、一方で、資格を持たない人間がこっそり代わりに何かをする、という意味の「替え玉」という表現もある。これはおそらく同じ言葉だと思われるのだが、どっちが先だろう。ラーメンの方が後か?

 ほぼ唯一と言っていい発見例が、宮城の「カッペロ」。カップラーメンのことらしい。「カップラ」ではない。
全国方言辞典」によれば、「ペロ」は麵類やすいとんのことだそうだ。

 山形には「冷やしラーメン」というメニューがあるが、北海道ではこれは「冷やし中華」を指すらしい。
 この辺の関係はなかなか面白い。ラーメンのことを「中華そば」と呼ぶが (別物だ、という人もいるようだ)、そうだとすると「冷やしラーメン」と「冷やし中華」は同じものってことになるのだが、実際には違うものを指す。外来語によって日本語が豊かになっている一例だ。
 一般的ではないかもしれないが、「中華そば」を省略して「中華」とだけ呼ぶこともある。俺の感覚では、高齢者に多い。
 また、「支那そば」という言い方もあり、店名としてよく使われるが、Micorsoft のカナ漢字変換プログラム MS-IME の辞書にはこの単語が登録されていない。差別語を含むという認識によるのではないかと思っているのだが、もしそうだとすれば過剰反応だと思う。

 と、珍しく政治的な話に触れてみたのは、最近お気に入りの店「支那そば 伊藤」を紹介したいからである。秋田駅前の市民市場内にある。
 実は、この夏に公開された映画『遠くでずっとそばにいる』に出てきた店で、ちょうどそのあたりに用事があった時に入ってみたのだが、味はしっかりしているのにすっきりしていて、カロリーを気にする俺でも安心してスープを飲み干せる (尤も、カロリーがどれくらいだか知ってて飲み干したのではないが)。

 上で書いた、夜に行ける店はどうもいまいちのところが多い。
 幹線沿いにある某店は、ここ二年の間、数か月ごとに、支店をたたみ、トッピングを追加できるサービス券がなくなり、メニューを整理し、と微妙に業容を縮小している。
 繁華街にある某店は、タンメンの野菜に味がついておらず野菜の嫌な臭みが感じられて完食するのに意志の力がいる。
 秋田のご当地ラーメンを売り物にしている某店は、その売り物はうまかったのだが、タンメンがやっぱり野菜臭くてがっかりした。
 グルメの先輩に言わせると、当たりはずれが少ないのが味噌なんだそうだが、塩は難しいってことなのかね。
 つか、晩飯については抜本的な改善を図らないとまずい体重になってるんだった。ラーメン食ってる場合じゃない。




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