Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第872夜

あさイチ (後)



 7/17 放送の「あさイチ」、「じぇじぇじぇ! 方言ってスゴイ」に借りた文章、後編。

 せっかく小林隆教授が出てるのに、被災地の方言が消滅するかもしれない、という方向に話がいかない。
 これも番組のテイストかと思うんだが、ほかの番組や記事に教授が登場した時でもそうなので、それはひょっとしたら「一般メディア」が欲する内容ではないのかもしれない。
 メディアが欲しいのは、ちょっと心温まる、あるいは逆につらい話だとしてもちょっと琴線に触れるくらいの辺り。「一つの方言がなくなる虞がある」は重過ぎるのではないか。

 教授と言えば、現在も新しい方言が生まれている、ということに触れていた。それが「新方言」なのか「ネオ方言」なのかは不明だが、それについて出演者たちが割と肯定的なのが印象に残った。
 それって、「言葉の乱れ」にカウントされることもある現象なんだけどね。たぶん、ここまでの方言に寄り添った番組の流れでそういう風になったんだろうと思う。
 まぁ、見返した感じでは、肯定的というより、スルーされたのかな、って感じがしないこともないんだけど。

 大槌町の吉里吉里地区の取材で、ウニのことを「カゼ」と言っていた。
「は?」と思いつつも、なんか聞いたことがある、と思って調べたら「ガゼ」という言葉があった。
「ガンガゼ」という毒を持ったウニもいるが、どうやら「かぜ」がウニを指す古語らしい。

 冒頭で室井佑月が「わ、ま、け」という方言の発話を紹介していた。
 八戸出身らしいから南部弁なんだと思うが、人に食べ物を進めるときの言葉である、と言えば解説の必要はないのではないだろうか。
 こういう一字の方言って、東北に限らず全国にあるんじゃないかと思うんだけど、どうだろう。誰か調べてくれないかな。

 福島の富岡町が避難している町民の支援を目的として解説したおだがいさま FM が紹介されている。
 方言について話しているコーナーで、「方言を隠そうとするとかえってばれる」という発言があった。それの例だったのかどうか不明なのだが、「おぢっぺましょう」という表現が紹介されていた。
 これは列車から降りるときの発言らしいのだが、おそらく「おぢっぺ」だけで「降りましょう」で、それに「ましょう」という標準語形がくっついているところがポイント。さっきの流れの例なのであれば、まさに、隠そうとしたことによって却って変になっている。
 おそらく「おぢっぺ」が「気付かない方言」だということはないと思われる。あるとすれば、「おぢる」が方言であることに気付かずに「おぢましょう」と言ってしまった、というような感じになると思う。

 最後に、出演者たちの言葉に関する発言を並べてみようと思う。

・小林教授
 方言は人がしゃべるもの、人が持っているモノ。
 だから、人が移動すれば影響を受ける。そこから、被災地の方言が消えるかも、という方向に行かなかった、というのはすでに書いたとおり。

・内藤剛志
 言葉というのは、千キロ先の人に使うものじゃない。
 今では、千キロどころか地球の裏側にまであっという間に伝わってしまうものだが、方言の現場にはその特徴は残っている。
 この人、「訛っている」という表現が嫌いらしい。「なまる」は「鈍る」であって、人に使っていい表現ではない、のだそうだ。ふむ。
 俺もこの「言が化けてる」って字面が嫌いだけどね。
 でも、この字をやめよう、っていうのは言葉狩りになっちゃうんだよな。

・有働由美子
 新人の頃、地方のニュアンスを理解しろ、共通語じゃないと理解できません、では仕事にならない、と言われたらしい。
 ほほう、いい先輩だ。
 Wikipedia の記事によれば、阪神淡路大震災の時、被災者に関西弁でインタビューしたそうだ。へぇぇ。

 視聴者からのメールでは、引っ越した先で、おばあさんに話しかけられた息子が何を言われているのかわからずに固まってしまい、いざ受け答えをするとおばあさんの方が何を言われてるのかわからずに固まってしまった、というのが微笑ましかった。
 そこからはじまるコミュニケーションというのが理想ではあるが現実は、というのは前に書いたとおり。




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