Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第871夜

あさイチ (前)



 なんだか NHK が方言づいている。
 今日、紹介するのは「あさイチ」だが、この後、「クローズアップ東北」が控えている。と思ったら、夕方のニュースでも取り上げていた。
じぇじぇじぇ」のせいだろうか。
 はしゃぎすぎはよくないぞ。

 放送されたのは 7/17 で、タイトルは「じぇじぇじぇ! 方言ってスゴイ」。
 まずは、当然のように東日本大震災の被災地から。
 ご当地ラジオ体操やら、方言丸出しの体操教室やら。そういえば、ご当地ラジオ体操の CD 出てるんだよな。
 となると、コメントは東北大学の小林隆教授。
 内藤剛志は大阪、室井佑月は青森。司会では、有働由美子が大阪経由の鹿児島、イノッチが浅草、レポーターの寺門亜衣子がアメリカ経由の茨城。

 いきなり、寺門アナ、レポートしながら方言使うのは難しい、と。
 それはそう。お仕事という改まった場面だから。そこで、きちんとした方言を使って、きちんとしたレポートをするのはものすごく難しいはず。
 後で、方言は豊かだ、というような発言が出てくるのだが、方言はそういう場面では弱い表現方法である。方言が豊かでない局面はある、ということ。
 ここでいう「方言」は、広義の「ある地域で行われている言語活動のすべて」ではないから、ちょっと発音が違う、という程度ではダメ。つか、誰も納得してくれないだろうね。
「あの人、スピーチなのになまってる」ということは言われるかもしれないけど、それはおそらく「スピーチなのに」という条件がついている。日常会話並みの方言ということは普通はない。それは敬意を欠いている、と言われるはずである。

 主に有働由美子が方言チャンポンな感じの話し方をしていたが、それをすると「(かわいくて) 有働さんの強さが隠れていい」というようなことをイノッチ。なんというブレイブ。

じぇ」に相当する言葉を岩手県内で収集している。詳しくは番組のホームページにあるので各自確認してほしいが、「じぇ」を起点に考えると、「じゃ」「ざー」あたりは似てると思えるが、「」はずいぶんと違う。が、間に「」を挟むとつながってるような気になってくる。
」では、大船渡の若い女性のインタビューが紹介されていた。高校生だろうか、というくらいの若さなのだが、彼女たちは使っているらしい。一方、「じぇ」は、つい最近まではあまり使われていなかったそうだ。今回の番組だけでなく、「あまちゃん」がヒットしはじめたころにネット上のニュース記事でも読んだ記憶があるのだが、やっぱり恥ずかしかったらしい。「『じぇだじょー」と言って笑われたそうだ。

 というような感じで、方言に対する否定という事例は実際にある。
 が、番組のテイストもあるんだろうけども、全般に善意に傾いているというか、悪く言えば表面的な感じ。
 後半、福島から西日本に避難した人たちのインタビューや追跡調査が出てくる。
 周りに溶け込むために自分の方言を封印してよその方言を使おうと頑張る人、自分が標準語だが周囲が方言なので孤立感を持ってしまっている人、就職の面接で「言葉がおかしい」と言われた人。
 これは現実であって、同時に、一概に責められるべきものでもない。転入してきた人が自分の言葉を我慢するのが気の毒なのであれば、同時に、迎えた側も自分の言葉を変えるいわれはない。
 また、絶対に引かない、相手が自分に合わせるべきだ、という考えをする人も少なくない。悪意を持ってる人だっている。前に書いたが、あの地震で東北が滅亡すればよかったのに、という発言はネット上に実際に存在する。
 それに目をつぶって、「周りの人も、あなたの方言を喜んでくれますよ」と言うのはちょっと無責任である。そんな風通しのいい社会じゃないだろ。希望を持たせるだけ罪深い、って感じがする。

 俺も、よその方言だからって「言葉がおかしい」と口にするセンスはどうかと思う、というか、その会社に入らなくて正解だったね、と思うが、大なり小なりそういう感覚はみな持っている。認めたくないかもしれないが、テレビで誰かが方言を口にしたときに笑いが起こる、あれと同一線上にある。非難する前に、自分の胸に手を当てたい。
 自分の言葉を抑えてる人が、自分の方言を話すと失礼になるかもしれない、と思った、という発言には胸が痛くなるけどね。

 つづく。




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