Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第869夜

絆創膏の謎



 掘り出しネタ第二週。
 HDD レコーダーが、事前に登録してあったキーワード「方言」に反応して録画した、6/15 に放送された、本来は 4/12 放送分の「所さんの 学校では教えてくれないそこんトコロ」から、「モノ方言」について。
 これは、文法とかアクセント・イントネーションではなく、一般名詞のこと。「気付かない方言」ではなくて、「なんでそれにそういう俚言形があるの?」という感じの表現。先週紹介したのでは、黒板消しを示す鹿児島の「ラーフル」、自転車を示す名古屋の「ケッタ」など。
 どっちも、方言の世界では有名な語だが、「びーし」も有名。岐阜・愛知で模造紙のことを指す。
 番組では、岐阜大学山田敏弘准教授の説として、「B紙」つまり、用紙サイズを示すA版B版の‘B’である、と明言していた。かつて岐阜で作られていた和紙「美濃紙」がB版のサイズのベースになったことが根拠らしい。
 が、ググってみると必ずしもそうとは言えないらしいことがわかる。
 国立国会図書館レファレンス協同データベースには「模造紙の地域名称であるB紙(びーし)及び大洋紙(たいようし)の言葉の由来」という文書があり、「未解決」ということでコメントを募集している。
 これによれば、模造紙には A/B 二種類があり、光沢がないものが B だそうで、これから来ているのではないか、という説もあるらしい。
 番組が市民に行ったインタビューでは、模造紙という言い方を教えたところ、女子高校生と思しき少女が笑いだしたのが印象的である。聞いたことがないのだそうである。

 方言に興味を持つのであれば、そもそも「模造紙」って何、っていう疑問を持ちたい。「模造」だよ、「模造」。
 これについては、さっきの文書にも説明があるし、Wikipedia にも記事があるが、明治のパリ万博に出品された紙の評判がよく、オーストリアの会社がこれを真似た。それが日本に輸入されて、されに日本の会社がこれを改良した、というステップを踏む。
 で、Wikipedia にも記事にたくさんの俚言形が紹介されている。中で、「B紙」「大洋紙」「大判用紙」が使われている地域では、「模造紙」が通じない、ということが書かれている。上のインタビューで少女たちが笑い出したことと一致する。
 これはおそらく、きちんと字で書けるし、すでに学校などの現場では公式に使われている(自由研究の用紙指定などで使われる)ため、「気付かない方言」になってしまっている、ということだと思われる。ほかの表現が入り込む余地がないのである。

 次、これも有名な題材。いわゆる「絆創膏」。
 バックナンバーに地図があるが、「バンドエイド」が関東、山梨、岐阜・愛知、大阪京都、兵庫、徳島、「リバテープ」が九州北部から中央、「カットバン」が東北、中国、四国、長崎、鹿児島、で、北海道は「サビオ」である。
 繰り返すが、「そういう商品があります」ということではなく、「これが一般名称になっている」ということである。店に行って「カットバンください」と言って、バンドエイドを買ってきたりするわけ。
 で、これは基本的に流通の問題である。東北では「カットバン」がガリバーなので一般名称の座を獲得した。それはわかる。
 だが、なんで全国的に商品名が一般名称になっているのか、という疑問がある。
 本来の一般名称は「救急絆創膏」である。なんで「救急」がついてるかと言うと、「絆創膏」というのはもともとはただのテープだから*1。それを小さく切って、薬品をしみこませたパッドをくっつけて、片手で貼れるようにしたのが「救急絆創膏」。
 確かに長い。省略したくなる。現実に、我々はあれを本来の定義から離れて「絆創膏」と呼ぶこともある。
 ではなぜ、そこで留まらずに、商品名で読んでしまう、ということが全国的に行われたのか。わからん。

 というわけで、「所さん」だけで市幅が尽きてしまった。「あさイチ!」についてはまた後程。




*1
 もっと遡ればテープでもなくペーストである。だから「絆創」と書く。「膏薬 (こうやく)」の「膏」である。 (
)





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