Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第865夜

骨のつづき



 骨の話、もう少し。

 やっぱり、最初に思い出すのは魚の骨らしい。山口・広島で小骨を指す「いぎ」「いげ」などの形が見つかる。
 これに似てるのが、秋田の「とぎ」「とげ」。
『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』によれば「鋭き毛 (ときけ)」の変化したものらしいのだが、となると「いぎ」はなんだろう。
 この語については昔から疑問を持っている。
「棘」と言ったら、バラのあれをはじめとする、植物のとがった部分であろう。
 が、おそらく、「とぎ」と言ったらほぼ間違いなく魚の小骨である。バラのあれを「とぎ」とは言わない。「とげ」の形でやっと、紛らわしくなる、という程度。
 だから、のどに刺さっている「とげ」は方言だと思っていたのだが、大学に入って上京して驚いた。巣鴨とげぬき地蔵の「とげ」は、皮膚に刺さったバラのあれではなく、喉に刺さったものだというではないか。
 読んでみると、針らしい。なんか毛利家まで出てきてどこの話だか判然としないが、江戸時代のことだから安芸ではなく、江戸藩邸でのことと思った方がいいんだろうか。
 なお、「とぎ」は『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』には載ってない。ほんとに網羅性に問題のある本だな。

いぎ」の方には、「いぎがましい」という発展形がある。
 魚なんかが、小骨が多いものを言うそうだ。
 また、人の言動が刺々しいことを指す場合もあるとか。やっぱり、「棘」なんだろうな、基本的に。

 瀬戸内に行くと「骨がましい」という言葉がある。どうやら、もともとはやっぱり小骨の多い魚らしいのだが、これが「めんどうくさい」に転じた。「骨が折れる」があるから連想は楽だ。
 で、よく似た形の「骨うるさい」という語もあるようだ。
「うるさい」を辞書で引くと、数が多い、というような意味が載っている。だから「骨うるさい」は方言ではない、という発言を読んだ。
 これはちょっと短絡的じゃないかって気がする。
 俺も時々やるが、辞書に載ってるから方言じゃない、というのは単純すぎる。上に出てきた「とげ」だって、「棘」という単語そのものは辞書に載っているが、いくらイメージが似ていても、それを「魚の小骨」という意味で使ったのでは方言と言わざるを得ない。
 魚を食べていて小骨が多くて面倒くさい、と思った人が「この魚の骨、うるさいな」と言ったのであれば、その時にそういう文を組み立てただけのことだが、「骨うるさい」と一続きに言ったのであれば、これは方言であることを疑ってよい。
 で、まぁ、残念ながらネットで探した感じでは、使用例がなくはないのだが、ちょっと少なすぎて、方言なのか、どこの言葉なのか絞りきれなかった。

 山口・広島あたりでは、木の破片の小さい奴を「すいばり」というらしい。大きいと「とげ」。
 で、これは、「ささる」のではなく「立つ」。なんとなくわかる。

 やっぱり人骨について触れておきたい。
 頭なんだが、「頭骨」を「ずこつ」を読むか「とうこつ」と読むかって、科の違いじゃなかったっけ、と思って調べたら、そういうわけでもなかった。
 なんかあったと思うんだよなぁ、そういうの。
 ひらのあゆの「ラディカル・ホスピタル」に書いてあったのは確かだが、今から 20 巻ひっくり返す気になれない。
 高松市のホームページに「どくろう」というのが載っている。頭のことだそうだ。ちょっと怖いな、それ。
 肋骨を調べると沖縄の「ソーキ」が出てくる。びっくり。「ソーキソバ」の「ソーキ」ってもともとはそういう意味なんだ。
 ちょっと方言から離れると、「ゴリラの肋骨」というのが多数ヒットする。動物医学の話かと思ったら、数の数え方。
 この掲示板にいろんなバリエーションが載っているが、「一、二、さんまの尻尾、ごりらの肋骨」と言う具合に、1 から数え始めて 5 と 6 のところに「ゴリラの肋骨」が出てくるわけ。
 肩甲骨は、前にも紹介した「けんびき」が圧倒的。ほかに「てなんかけ」「けんからぼね」「かまぼね」「てごす」「あがき」などもある。
 やけに多いんだが、これやっぱり「けんびき」が風邪から口内炎まで広い意味を持つ語だってことと関係があるんだと思う。
 面白いのはさらに下がって、「骨盤」にすると途端に健康器具の CM ばっかりになる、ということ。これがノイズになって方言の情報が見えなくなってしまう。

 今度は外国語に手を伸ばすと、フランス語では尾根のことを“arête”と言うが、これは本来「魚の骨」のことだそうである。

 折ってみて気づいたのだが、人差し指だけで何かをする、というのは俺の場合、結構多いのである。具体的に言うと、鍵束のリング、上部に掛けるための輪があるデイパック、レジ袋など、持ち替えたりするときにそこを人差し指に引っ掛けることが多い。そのたびに、ぐおっ、っとやっていた。
 あと、蛇口をひねることもできない。最近は、人差し指を使わずにひねる癖がついてしまった。骨はくっついてるのにいつまでも痛いのは動かさなかったせいじゃないか、という話もあって、それではいかん、とも思うのだが、癖になってはどうしようもない。
 骨折は人の生活を変える。




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