Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第863夜

クロ現オノマトペ



 NHKのクローズアップ現代で、オノマトペを取り上げていた。サブタイトルに「じぇじぇじぇ」があったので方言も関係あるのかと思って見てみたが関係なかった。
 予想はしていた。「じぇじぇじぇ」は驚いた時に思わず口にする言葉で、これは普通「間投詞」に分類される。擬態語でもなければ擬音語でもない。「あっ!」をオノマトペとは言わないだろ。オノマトペと間投詞の両方を一般向けの 30 分番組で扱うのは難しいんじゃねぇかなぁ、とは思ったんだ。
 でもまぁ、見てしまった時間がもったいないのでネタにさせてもらおう。

 前から思ってるんだが、この番組の「クロ現」って略称は、「黒」を思い出してあんまりいいイメージを持てない。まぁ、現代社会を適切に表現しているのかもしれないが。

 オノマトペの使用が増えている、ということでまずコンビニヘ。ケーキやパンなど、「もちっと」が一杯、という話。記者が「『もちっと』ちょっとありすぎじゃないか」と突っ込んでるのが可笑しい。店員も苦笑している。
 これっておそらく「餅」から来てるんだと思うんだけど、名詞由来のオノマトペって珍しい例じゃないのかな。

 次が国会。
 いや、議員ってそもそも「正しい日本語」を使ってる人じゃないからね。前にも書いたけど、「さ入れ」なんかは、議員を含む「偉い」人がよく使っている表現だし、国会やインタビュー、演説を聞いてると、怪しい人が多い。
 舌禍事件が後を絶たないことを思い出せば、ものをいうときに頭使ってないのは明らかだし。
「言葉の乱れ」の先端を行く、という意味では、若者と二大勢力を形成しているはずで、オノマトペの使用が増えている、という変化を示すには絶好のサンプルかもしれないが。
 オノマトペを発していた時なのか聞いた時なのか説明がなかったが、名詞や動詞と比較して、脳の活性化している領域ははっきり広い。つまり、聞いた時のことで言えば、ものすごく情報量が多い。それが一語で表現できるわけだ。
 国会議員のオノマトペ使用が増えてるのは、耳目を集めるために強い表現を好んで使う、というのと同じ行為じゃないのかね。暴走族が大きい音を出すのと大してかわらん。*1

 次は陸上競技の監督。
 指導の時に「ぐいっ」とかオノマトペを多用するらしい。
 放送されていた範囲では、それによるニュアンスが伝わってたかどうか判然としなかったが、雰囲気はわかる。多分、たとえば力の入れ具合なんかが一発で伝わる、ということを期待しているのだと思う。
 だが、監督の言う「ぐいっ」と選手の思う「ぐいっ」とが同じという保証はないわけで、これは本来、問題のあるやり方である。監督が「新しい感覚を作ってあげる」と言っていたのは、「インストール」に近いんじゃないだろうか。平たく言えば、選手が合わせるってことだと思うけど。

 カウンセリングの現場。
 悩みを抱えている人が自分の状態を、たとえば「むにゅ」と表現したとする。その表現が見つかったことで一歩、踏み出せる、という話。
 ものすごく情報量が多い、と上に書いたが、それはつまり、複雑な様相を呈しているはずの精神状態が一語で表現できる、ということである。そうすると自分の状況が見える。
 不安は正体がわかれば (解決しなくても) 不安でなくなる、と言う。そういう効能があるのだろう。

 ロボットの制御にもオノマトペが使われる。
「がしがし」と言うとそういう風にロボットが歩くのは微笑ましいが、中でコメントされていたように音の印象を動きに変換してるってわけじゃないように見えた。
urouro
キレ:0.052
柔らかさ:0.2636
躍動感:0.268
 って表が写ってたぞ。
 まぁ、長時間取材したのを切り出してあるんだろうけどさ。

 オノマトペを分析している坂本真樹教授。
「金属に見えるプラスティック」を開発しているメーカーがその手法を使って、製品を解析していた。
 どうしても金属に見えない、ということで困っていたのだが、オノマトペを使っていろんな人に評価してもらったところ、「ツルツル」という評価が多く、その一方で金属には「ザラザラ」という評価が多い。
 つまり、我々も金属っていうと「ツルツル」というイメージを持ってしまうが、必ずしもそうではない、ということ。その評価に従って、表面の加工をザラザラに見えるようにしたら金属っぽくなったという。
 これって、オノマトペと形容詞。名詞などを使った表現は補完関係にある、ってことなんじゃないのかな。小野正弘教授が「車の両輪」って言ってたけど、人間が何かを評価する、っていうのはものすごく多様で、「〇〇だけ」でできるようなもんじゃないんだってことだと思う。

 この番組でやたらと「オノマトペが増えてる」って言ってたけど、本当に増えてるのか?
「モフモフ」って新しいのだろうか。それを動詞にした「モフる」は新しいと思うけど。
 サブタイトルにもなってる「ぱみゅぱみゅ」は、もとをただすと八木真澄という芸人の決まり文句だったらしい。そんなんで芸名つけるんだ(Wikipedia のきゃりーぱみゅぱみゅ)。
「ポンピュン」も気になったが、これは速く走る方法の「ポン・ピュン・ラン」のことだろうか。

 小野教授は、「びゅっ」「びゅーん」「びゅーんっ」と変化させて、生産性について触れていて、それが「日本語にはオノマトペ」が多いことの説明になるってことなんだろうけど、本当に「日本語にはオノマトペ」が多いんだろうか。
 現実問題として、俺は英語のオノマトペを列挙できないけど、オノマトペがやや俗語的性格を持っていて、一般の語学学習者はそれに触れる機会が少ない、ってとは関係ないだろうか。漫画とか砕けた小説とか読んでないとなかなか出会わないのじゃないかな。
 ここで多いと言われているのは、擬声語ではなく擬態語だと思われる。「ワンワン」に対しては“bow-wow”があり、一対一とは言わないまでも、日本語が突出して多い、ってことにはならないんじゃないだろうか。

 漫画ではオノマトペは多用される。
 が、最近では、オノマトペが期待される場所にそれ以外の意味語が登場することが多い。
 ある人物が自分の取ったものを戻すとき、「もどしもどし」と書かれている、なんてのを例として挙げてみる。「ぬぎぬぎ」「ほどきほどき」なんてのも見た。ここで実例の絵を示すことができればいいのだろうが、著作権の関係でできないのが残念。「もちっと」の起源?
 これ、相互補完っていうより、オノマトペでないものをオノマトペにしている、つまり、オノマトペに頼ってる、ってことなんじゃないのかな、と思ったりもするが、根拠薄いので押さないでおく。

 オノマトペの使用は、内向きの言語活動じゃないだろうか。いくら活発に見えても。
 というのは、何度も言っている通り、「なんでその語がそういう意味を持っているのか」ということが理屈で説明できないから。なんで猫は「モフモフ」で、音が似ている毛布は「モフモフ」じゃないのか、説明できる人なんていないと思う。*2
 これは日本語を学んでいる最中の人にとっては障壁になる。外国人もそうだし、子供もそう。わかっている人にしか伝わらない、という意味で、内輪語の性質を持っている。

 せっかくなので方言をちょっと。
はかはか」はおそらくオノマトペなんだが、「どきどきする」という意味。いや、未だに覚えられなくて、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』で調べた。
 この本には擬態語の項目が立てられており、いろいろと載っている。「しっかり」「ちゃんと」に相当する「がりっと」なんて面白いんじゃないかな。「明日がら試験だがら、がりっと勉強する」という使い方もあれば、「点数悪くて、がりっと ごしゃがいだ」という使い方もできる。
 山梨で「ふざける」を意味する「わにわに」ってどうだろう。
 あ、冒頭で「ほっこり」が出てきたが、これはこれで、本来とは違う意味のまま全国に広がってしまった珍しい例。

 冒頭と言えば、国谷裕子に「ドキドキ」と言わせていたが、今度は役割語を取り上げて「クローズアップ現代の時間だぴょん」とか言ってほしい。

「あまちゃん」は、主役の子が好みのタイプじゃないので見てなかったのだが、俺の周囲でも評判がいいので、「夏ドラ」の量によっては 7 月から見ようかと思っている。




*1
 大分、前の話だが、連立政権のことを「野合」って言い出した時はびっくりした。お茶の間に持ち出していい単語じゃないと思う。 (
)

*2
「言語の恣意性」ってのがあるから、つきつめていけばどっかで説明はつかなくなるんだが、それとは違う。
 冬に使う薄目の寝具は「モウフ」という音だけだとやみくもに覚えるしかないが、漢字を知っている人であれば「毛布」という字を見ると納得できる。「モフモフ」にはそういう手がかりがない。
 つか、ひょっとしたら「モフモフ」って「毛布」から来てたりするのかも。
 ああ、「マフ」ってのもあるなぁ。 (
)





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