「
御かぞくさま御いっこう」のもぐら氏の人気シリーズ、都道府県を擬人化した「うちのトコでは」の
第三巻。
シリーズ各巻に必ずある長編、今回は石見銀山の世界遺産登録がテーマ。
日本の世界遺産はいつの間にか 16 件にまで増えており、一覧を見ても、「え、それ世界遺産なんだ」と思ったりする。この辺、気づいたら 20 に増えていた政令指定都市と似た感じがある。どっちも、最初のころの奴は全部覚えてたんだけどね。
先に東北の奴についてまとめておくと、白神山地がああいう風に手つかずのまま残ってたのは、ブナは一般的に使い道の乏しい木であることと、白神山地はまた隆起が続いている地域で林道などを作っても崩れてしまうことが多い、などの理由があるらしい。
そんな感じは、この「うちのトコでは」で触れられている屋久島もそうらしくて、今でこそ「原生林が残っている」と言われるが、伐れるところはあらかた伐ってしまって、今残っているところは伐り出しが大変なところ、活用が難しい木、ということなのだそうだ。この辺りは
Wikipedia にも書かれている。
平泉のほうは、一遍、「登録延期」されたものの、基準を見直して再審議を受けてやっと、ということだったそうだ。いやもうすっかり忘れてるわ。
なにせ世界遺産の基本は「顕著な普遍的価値」で、それを認めてもらう (と言うか、認めさせる、と言うか) のは大変、ってこと。
で、石見銀山。
平たく言うと、室町時代から江戸時代中期に栄えた銀山である。この本を読んで初めて知ったのだが、その最盛期のころ、世界で流通している銀の 1/3 は日本で算出したもので、その大半が石見からだったといわれているとか。すげぇ話だな。
こちらも一旦は登録延期になっている。
まんがの中では、「鉱山っぽくない」ってことが原因の一つになっている。要するに、鉱山のイメージというと禿山なのだが、そうでない。
なんで禿山になるかというと、掘り出した鉱石を処理するには強い火力が必要で、そのために木を伐採するからである。
ところが石見では、皆伐せず、伐採地域を少しずつずらし、伐ったところに植林していった。そのため禿山にならずに済んだ。
その点を踏まえた補足説明文書を提出したところ、これが「エコ」であると評価された逆転登録となった、ということだそうである。
こないだ NHK の BS で「アテルイ」をやっていたが、この中で、製鉄をするために禿山になってしまう様子が描かれていた。
まぁ、あれは戦争で必要だったわけだから、ちょっと意味が違うけど。
島根に行きたい学校がないため、広島に進学する少女が出てくる。また、県民は地元に自信が持てないで、例えば、申請後には「きっと駄目だよ」と後ろ向きな姿勢が強調されている。その彼女ら彼らが地元を見直していく、というのがこの漫画のストーリー。
やっと方言。
とは言っても、こっちちはほかの漫画と違ってストーリーを追う必要があるので、方言そのものを扱ったりはしていない。ので『最新 一目でわかる全国方言一覧辞典(
学研、1998、ISBN4-05-300299-0)』『都道府県別 全国方言小辞典(
三省堂、2002、ISBN4-385-13694-7)』からちょっと引っ張ってくる。
「
ちょっこし」というのがどちらにも載っている。意味は想像がつく通りで「少し」なのだが、これ、
NHK広報局(ユル〜く会話しますよ)のツイートでよく見るような気がする。中の人は島根出身なのだろうか。あ、中の人は
いないんだっけか。
『
砂の器』で有名だが、ズーズー弁で東北弁と似ていると言われる。この二冊に載ってる語を見てると「
ばんげ (夕方)」「
まくれる (転ぶ)」「
まめ (健康)」と同じような使い方をする単語も多い。なお、この地域にだけズーズー弁がある理由はわからないらしい。
「うちのトコでは」ではよく「
ごぜ」という表現が出てくる。「〜してください」で「
聞いてごぜ」なら「聞いてください」。単純に「ください」が変化したものなのだろうか。
「
たばこする (休憩する)」は広島でも使われる。
世界遺産というものの微妙さにも何度か触れられている。
広島には厳島神社と原爆ドームの二つがあるが、後者について「いいなぁ」と言うよその人たち。俺、そういうことを言った人は、きっと本当にいたと思う。広島 (擬人化キャラ。以下「人」) は「(原爆ドームが)
欲しいなら過去ごとやりたいわ」と激怒している。
千年の都、京都 (人) は、その趣旨自体は認めつつ、ユネスコが千年後にもあるかどうかはわからない、と言う。「
本当に大事な遺産なら、よそさんの評価に左右されず、地元の人間がしっかり守らな!」というのが、正解ってことだろうね。理想論ではあるけれども。
白川郷なんか、角館の武家屋敷と一緒でそこに人が住んでるのに、ずかずか入り込んできたり、庭木を盗まれたりして困ってるらしいし。まぁこれは世界遺産の問題というより、田舎に観光しに来た観光客の方が田舎者だった、という話か。
というわけで、「うちのトコでは 3」の話はおしまい。