Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第844夜

まだ正月



 もう二月だというのにまだ正月番組の話。「なまりうた」が意外に良かったもんで三回連載にしちゃったからな。
 今度は 1/5 の「月曜から夜更かし」。土曜日だったが、正月スペシャルと言うことで。
 可愛い方言と可愛くない方言を取り上げていた。

 導入部はこれまでの総集編みたいなもので、それによればどうやら「最も可愛くない方言」はすでに決まっているらしい。
 それは甲州弁だそうである。この番組が言ったことで、俺の意見ではない。
 決定したときの例文が紹介されている。
大阪 うち、田中ちゃんの愛人やねん
兵庫 うちって、田中ちゃんの愛人やねんな
福井 うちぃ、田中ちゃんのぉ愛人なんやって
甲州 おら、田中ちゃんの愛人つーこんずら
 これ、意味同じか?
 兵庫と福井は「私、田中ちゃんの愛人なんだって」って意味の様な気がするんだが、大阪は「愛人なんだ」って宣言の様な気がする。
 甲州の「つーこんずら」がわからないので調べてみたら、これはこれで「愛人なんでしょう?」って意味らしい。甲州の人から、間違ってる、というツッコミ多数。
 あと三つ例があって、「おまん、こっちんこうし」「だっちもねぇこんいっちょし」「ちょびちょびしちょし」なのだが、順番に、「あなた、こっちに来て」「バカなことを言うな」「調子に乗るな」らしいのだが、語尾はどれも「」なのに、「こっちんこうし」だけが肯定の命令で、あとの二つは禁止。どう違うんだろう。

 この番組では、「可愛くない方言」のほかに「ブサイクな方言」という言い回しもしているのだが、甲州弁の後、伊勢も名乗りを上げたらしい。紹介されていたのは「おかま」と「すりちん」。
おかま」は「面白い」、「すりちん」は「すれ違う」。
 番組では、マツコ・デラックスを指して「おかま」と言っていたのですぐに分かったのだが、「すりちん」もなぜか見当がついた。

 新潟で「」と「」に区別がないことは当人達も自覚しているらしく、スタッフに色鉛筆を見せられると、笑いながら「えろいんぴつ」と言っていた。
 Wikipedia では栃木弁の記事でも「えろいんぴつ」が紹介されているし、茨城出身の芸人・赤プルのブログにも記事がある。「い/え」の問題を持つ方言は少なくないと思うので、おそらくほかにもあるんじゃないかな。

 名古屋では、やかんのお湯が沸いている「ちんちん」「ちんちこちん」が紹介されている。鉛筆の先がとがっていることを示す「ときんときん」などと合わせて、言葉を繰り返すのが特徴、とか言っていたが、それは単なるオノマトペである。そろそろいつもの民放方言番組っぽくなってくる。
 画面には「最も特徴的な使用方法を想定しています」と注意書きがあるが、ものっすごく小さい字で、俺のブラウン管テレビではつぶれてしまう。
 いやそもそも「ブサイク」というのは言いがかりで――まぁ、スタッフもそれは承知でやってるんだと思うが――これが成り立つのは、別の言語のルールで理解しようとするからである。オランダのスケベニンゲンや、バヌアツのエロマンガ島をネタにするのと同じ理屈。
 だから、与太話程度の意味しかない。しかもやたら下がかっている。

 特に取り上げられているのが、越中弁。
 お見合いのシーンを取り上げているのだが、「おひんなりあすばいたか」という挨拶には確かにまごつく。これは「おはようございます」で、「あすばいたか」は「あそばせ」と同じ系統の言葉だと説明を受けてやっと納得する。
 それ以前に、女性を招き入れるときに「おい あんた、こっちへござれま」と読んでいるのに大分驚く。「あんた」のニュアンスが全然違うわけ。
 こっから、民放バラエティらしく急降下し、「正座」の「おちんちん」、「互い違い」の「だんこちんこ」と続く。

 最後に、甲州弁と越中弁でケンカをさせるというのがある。ケンカするのは女性である。この際だから、全文を載せる。
この際はっきり言うけど越中弁の方がめぐせぇぞ。
なんちゅううざくらしいが 甲州弁の方がやわしてぇ言葉で恥ずかしいちゃよ。
てっ。だっちもねぇこといっちょし。いっさらわかっちゃいんわな。越中弁の方がみぐせぇ。
いつんかもこわくさい事ばっかゆう女やね。
おめぇこそ いつもちゃきいこんばっか言うて しゅえぇ女だな。
おーどなこと言っとんな。
のぶいわぁ。ごっちょやな このわからんちん。
だらんことばっか言うなま。
 そんならここらへんでちょうつけまいか。

そっちがその気だったらやってやるずら。
しょわしないなぁ 黙っとれんが。
おまんこっちんこうし。
  その服かじってひっちゃぶいちゃるからな。
やったな、ろっぽもん。はがやしいなぁ。
そんなひっこくっちょ。
お前半殺しにすっからなぁ。
 微妙にかみ合ってないような気もする。
 一つだけ触れると、越中弁の「しょわしない」は「うるさい」という意味だと思われるが、秋田弁では「落ち着かない」という意味になる。
 最後の「半殺し」は、見合いの再現ドラマで、お萩のことを言う、という説明を受けてのものだと思われる。

 というわけで、普通の民放バラエティだった。
 話は変わるが、マツコ・デラックスは結構、まともなことを言うので、割と好感を持っている。だからってこの番組をまた見ようとは思わないけど。




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