Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第791夜

ハナばあちゃん



 今週も暮れのテレビの話。テレビっつっても映画なんだが。
 秋田、正確に言えば、大館で撮影した『ハナばあちゃん!!〜わたしのヤマのカミサマ〜』。
 全国ロードショーってタイプの映画でなく、見るには上映会を待つ必要がある (いや、DVD 買うって手もあるが)。去年の春の、秋田市での上映会の日は別の用事があって見られなかった。色んなところでやっているようなので、それを追いかけることになるのか、と思いながら 2011 年が終了、という間際になって、ABS で放映された。

 ひとまず、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』から大館付近の言葉のおさらいをしておく。
 とは言いながら、この本はこれという特徴を挙げていない。
 よく、鉱山があったから言葉が荒っぽい、と言われるのだが、じゃどう具体的に荒っぽいのか、と言われても困るらしい。県南部で撥音になるところが促音になる(「そうです」の「んだんし」が「んだっし」)例が挙げられているが、それと鉱山がどう関係あるのかは不明。
 どこだか忘れたが、秋田県外のどっかの言葉で、荒っぽいといわれる方言が早口かどうかの統計を取ったのを見たことがあるような気がする。大阪弁だったかなぁ。
 語彙で言うと、「言う」が「へる」になるのはこの辺りらしい。例の「しゃべればしゃべったって…」を「へる」でやった例文が載ってるのだが、これはどうやら嫁の悪口に対する反論らしい。どうせ言われるんなら私は喋るよ、てな訳がついている。
 最後の「へってへたてへられだほーえはんでへる」は、「へって/へたて/へられだほー/えはんで/へる」と区切るが「喋って/喋ったって/喋られた方が/いいので/喋る」ということになる。この「えはんで」は津軽弁と同じ形である。近所なだけのことはある。
 特徴的なのはやはり、「〜だけれども」の「ばって」だろう。
 続いて、大館・北秋田方言に特徴的な言葉が 39 語並んでいるのだが、聞いたことがある語が非常に少ない。凧が「はた」、雷が「れぇさま」というのは他の地域でも言うよなぁ、というのを知識として持っている程度。
 俺が大館にいたのは 3〜4 歳のころだから知らないのも無理はないか。

 さて、映画のほう。
 本当に大館で企画された映画で、ごく一部を除けば大館で撮影されているので、その秋田弁に嘘はあるまい、と思って見ていたのだが、ところどころひっかかった。
 勿論、全国公開することになるわけだから、多少、薄味にすることはあろうと思っていたし、メインの役者達は東京から呼んだ人たちなのでその辺、慣れないこともあろうとは思っていたのだが、そういうのとは違うところがいくつもあった。
 割と最初の方に出てきたのが、「退屈」の「てぇくつ」。言うかなぁ。こういう音便化は秋田弁ではしないような気がする。
 後半で出てきた、「意地さはってねーで」の「」も気になる。「テレビ方言」に引きずられてないだろうか。「無理はなかろう」ってのもあったな。
「亡くなる」が「ねぐなる」になっていた。「無くなる」は「ねぐなる」だが、「亡くなる」はどうだろう。
 ホームページに方言指導の人の名前もあるのだが、どういう人だか分からない。いや、それを言ったら、ググって経歴が分かるスタッフのほうが少ないんだけど。
 ただ、最初に書いたとおり、俺もよく大館の言葉はよく知らない。ほんとうにそういう言い方をするのかもしれない。正直、おっかなびっくりである。
 と言いながらもう一つ。「人と」は「ひどど」ではなく「ひとど」だと思う。

〜ばって」は「言わねばって (言わないけれども)」「食えだばって (食えたけれども)」など、さすがに何度も出てきている。

 薄めたのかな、という方言は、たとえば「好きなようにせ」で、これはネイティブ風に言えば「好ぎだいにへ」「〜せ」となると思う。

 今頃、ストーリーの話をするが、「ハナばあちゃん」と親しまれているおばあちゃんがやっている喫茶店をめぐる話である。
 映画の冒頭でハナばあちゃんは亡くなってしまうのだが、孫の実香 (入山法子) は料理がまるっきりダメで、常連達も彼女が店をやるようになってからは飲み物しか頼まなくなっている。そこに元アイドルの湊マヤ (秋田真琴) がふらってやってきて騒動が起こって…という展開。
 川藤清 (北山雅康) という男もいる。彼は大阪出身なのだが、鉄道の運転手になりたくて秋田内陸縦貫鉄道に入社するためにはるばるやってきたのだ。
 その彼が、いきなり「レイコー」を頼む。アイスコーヒーである。食べ物にはこだわりがあるらしく (大阪人らしく、というのは偏見か?)、見かねて秘密のレシピを実香に伝授したりする。
 東京のテレビ局の若手ディレクター所 (渋江譲二) もやってくる。実香の後輩の理美 (岩田さゆり) に案内されて大館市の取材をするのだが、そこにじゅんさいを栽培している池も含まれる。
 ちなみに大阪で「じゅんさいな奴」と言えば、つかみ所のないやつ、という意味。

 方言ではないが、一つだけものすごく残念だったこと。つか、間違い。
 理美はデザイナー志望らしい。部屋の中が映って、本棚が見える。そこに「デザインパターン」の本。
「デザインパターン」というのは、絵とか視覚系の「デザイン」ではなく、コンピュータのソフトウェアの設計技法である。スタッフがタイトルだけ見て並べたんだろうなぁ。

 というわけで、手に汗握る、という種類の映画ではないが、言えば「ハートウォーミング」な話。人によっては、何もないと思っていた自分の町でいいところを探すきっかけになるかもしれない。
 大館であんなに見事が雲海が見られる場所がある、ということを知っただけでも収穫だった。




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