Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第776夜

蟻が十なら芋虫ゃ二十歳



 先週末、東京へ遊びに行った。
 さほどハジケたわけではないが、5 時スタートで 1 時まで飲んでたので、それなりにハシャいだことになるな。それで消耗したのか、帰りの飛行機が秋田空港に着陸するころから喉の奥が痛くなり始めて、翌朝には頭痛と倦怠感までプラス。
 それでも仕事できないほどではない、と思って出社したんだが、恒常的にトロい社内ネットワークが処理待ちに入るたびに沈没しそうになる。定時退社して医者へ。
 体温計渡されて計ってみてビックリ。38.9 度。
 当然、インフルエンザの疑いをかけられて隔離、検査。
 幸い、違ったのだが、まぁ、体力が落ちてるってことだと思う。長い残業生活で、最終回近くのウルトラセブンのごとく疲弊してるわけだし。

 東京ではとあるパーティに出席。隣に福島の人がいて、同じ東北ということで、ほかの人をよそにちょっと話が弾んでしまった。
 時間が経つにつれて、向こうのイントネーションが標準語ではなくなってくる。いや、最初からそういう雰囲気があったような気もするのは、やはり無アクセント地域だからか。
 俺はさほど出ないが、まったく出ないこともない。語彙は標準語形といういつものパターン。
 彼が言うには、秋田の人が秋田弁で話し出すと全く見当がつかない、らしい。福島は、語形は標準語風なのでわからないことはないが、秋田だともう単語から違うんだとか。
 必ずしもそうではないはずだが、ちょっと具体例が挙げられなかった。
 暮れにもう一度会う可能性があるので、そのときにもうちょっと突っ込んでみたい。

 パーティの後、居酒屋に寄った。「はなの舞」という全国チェーンである。
 箸袋に、「ありがとう」の俚言形が小さな字で並べられている。それをちょっと見てみる。

青森 ありがとうごす ググっても用例は 45 件しかなく、その中には、この箸袋のことを取り上げた記事も含まれる。いくつか見てみたが、俚諺形ではなく、青森と関係ない人による、今風な省略とおぼしき使われ方も散見される。
秋田 おおきに まぁ確かに、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』にも『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』にも「おおぎに」の形で載ってはいる。「なんもだー」と返すのが普通のやり取りだろうか。
 これは、大阪は勿論、愛知・福井・佐賀・宮崎のところにも書かれている。
福島 してもらって 特異な形。目の前にいるんだから、彼に聞けば良かったんだが、別の話題で盛り上がっていたので、ちょっと遠慮してしまった。ただ、全国大阪弁普及協会に、「磐城や岩代で『たいへん』『してもらって』とあるので、間違いというわけでもなさそうだが…。
岐阜 うたてー これはよくある形。古語で、「心が痛む、気の毒だ」という意味。お礼を言わなければならない状況というのは、大なり小なり相手に迷惑をかけていることになるわけだから。富山と石川のところには「きのどく」もある。
新潟 ごちそうさまです ググったがノイズが多すぎて裏が取れない。富山のところにもある。
石川 ようした これも 671 件と決して多くない。
鳥取 ようこそ 年配の人が使うらしい。
広島 ありがとうあります これも年配の人の表現だそうだ。
山口 たえがとうございます ものすごく仰々しく聞えるが、わからんことはない。ただ、用例は 8 件で、すべてこの箸袋の紹介。
徳島・高知 たまるか これはどうやら、「ありがとう」ではなく、強調の副詞のようだ。「ありがとう」に絡めるなら、「どうも」「まことに」あたりか。高知だと、驚いたときの間投詞らしい。
熊本 ちょうじょう「重畳」だろう。発想としては「おおきに」も一緒かもしれないが、愛媛・島根・大分とのころにある「だんだん」と同じで、「重ね重ね」という言葉で感謝を示す地域は多い。
宮古島 たんでぃがーたんでぃ なんでかしらんが、宮古島が別扱い。「たんでぃ」は「頼んで」なのだそうだが、これが謝意を示す言葉になる。
 というわけで、ググるとこの箸袋の話題しかヒットしない、という語がいくつかあり、ちょっと正確性に難がある。
 まぁ、酒の席の話題にはいいのかもしれない。

 風邪の方は、熱は下がったものの、まだ鼻水は出るし、かすかな頭痛もある。
 俺の風邪はこっから完治までが長い。あと二週間はかかると思われる。まぁ、頭痛さえ消えてくれれば、鼻がむずむずするくらいどうということもないんだが。




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