Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第771夜

虫文



 ようやく夏が終わろうとしている。
 正直、今年の夏が暑かったのかどうかは実感しては分からない。なんせ全体として省エネ ムードで (俺の職場を除けば) 冷房抑制気味なので、暑く感じられるのが気候のせいなのか節電のせいなのか判然としない。
 んー、「俺の職場を除けば」って書いたけど、そうでもないのかな。何度か、「なんでこんなに寒いの? 省エネは?」って冷房をしている店に当たったこともある。微調整できない設備もあるのかもしれないな。
 それはさておき、夏と言えば蚊。
 今年はなんか刺される回数が多かったような気がする。先週は特にひどくて、最大で 6 ヶ所もあった。軟膏大活躍である。
 実は、部屋が不潔だという自覚はあるので、ダニやシラミじゃなあるまいな、と思ったのだが、痕の様子を調べてみたら、そうではないようで一安心。
 暑いからって窓開けてるからなぁ。いや、全部の窓に網戸をつけようかと毎年思うんだが、意外に高くて。トイレ用の小さいやつだと注文しなきゃならないし。ほんの数ヶ月のことだしなぁ、と思うとどうしても後回しになってしまう。

 蚊の攻撃を受けることをどう言うか、ということは時折話題になる。
 どうやら、ものすごく大雑把に言うと、「かまれる」が関西、「くわれる」が北日本という感じのようである。
 が、辞書で「食う」を引くと、用例として載っている場合がある。
く・う〔くふ〕【食う/×喰う】 [動ワ五(ハ四)]
4 虫などがかじって物を傷める。また、虫などがからだを刺す。「衣魚(しみ)の―・った書籍」「蚊に―・われる」
(デジタル大辞泉)
 標準語形はおそらく「刺す」であろう。軟膏は「虫刺され」のための薬であって、「虫食われ」「虫かまれ」とは言わない。
 …と思うんだが、一応、ググってみたら、「虫食われ」と言っている人もいないではない。ただ、農作物を食べられてしまったときに使われる例が多いようである。
「虫かまれ」もいるが、数はぐっと減る。こちらは、農作物での用例はないようだ。
 中国地方には「かぶる」という言い方があるそうだ。「かぶりつく」と同系じゃないのかな、と思う。だとしたら「食われる」系の表現ということになるが。
 実態としては、やはり蚊には「刺される」ものだろうと思う。蚊は噛んだり食ったりはしない。ブヨあたりだと、そう言ってよさそうな気がするが。
 俺はどうだろう、とちょっと考えてみたんだが、はっきりしない。
「かまれる」でないことは確かなのだが、「くわれる」かなぁ…。その場合、「かいる」という形になるのだが。なお、「さされた」も「ささいだ」になる。
 単純に形が変わってるだけだからか、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』にはその辺の記述がない。

 なお、英語では“bite”である。つまり、英語の蚊は咬むのである。

 医療関係の特許文書で、「虫咬まれ及び虫刺され」という表現を使ったのを二つ見つけた。医学的には別ものなのかもしれない(創傷を治癒する組成物を含むレザーカートリッジ三環式芳香族化合物)。その割に「虫咬まれ」という単語の使用例はえらく少ないのだが。
「虫噛まれ」の方が多い。「咬」と「噛」の違いは、手元の漢和辞典では分からなかった。

 数年前には、尻をかじる虫が話題になったことがあるな。

 ここ数年、刺されたところが地腫れを起こすことが多い。
「地腫れ」というのは俗語的表現なんだろうか。この MS-IME の辞書に入っていないし、ググっても使用例が 3,000 件しかない。で、医学的な文書もほとんどなくて、辞書サイトと個人の文章が多い。
 なんで、俚諺形もほとんど見当たらない。
「地」を脇において「腫れる」だけにすると、広島の「いばる」などが見つかる。佐渡では逆に、腫れが引くことを言うらしい。
 新潟や山梨では「すびる」という語があるが、これはどうやら「しぼむ」ということらしく、膨らました風船が小さくなることを言う地域もある由。
 痒みが収まってからも痕が消えるまでに一週間以上かかる。なんか体質の変化があったのか、それとも老化現象なのかはわからないが、後者かねぇ、やっぱり。




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