Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第741夜

コミックいわて



『コミックいわて』を買った。
 岩手県知事責任編集というふれこみ、岩手出身漫画家の作品のアンソロジー。
 前からニュースになっていたので楽しみにしていた。全国販売するという話ではあったが、やっぱり注文かなぁ、と思っていたところ、本当に地元の書店に並んでいたのでその場でレジへ。
 ちなみに発行は岩手日報社。

 特にマンガ ファンというわけではない。読む範囲はものすごく限られているので、知っているのは池野恋と吉田戦車くらい。とりのなん子については、知り合いから、『とりぱん』読んでみ、と言われたことはあった。
 麻宮騎亜も岩手なのね。『六三四の剣』の舞台が岩手だってのも初めて知った。
 池野恋って現役なのか。『ときめきトゥナイト』を連載してたの、俺が高校生のときだぞ。

 で、方言。
 最初に出てきたのは、そのだつくしの『幸来来 (さっこら)』で、「でんび」。額のことらしい。宮城や山形でも言うようだが、島根の文章も見つかる。「出額 (でびたい)」の変化である由。
 宮城の古川辺りで「してこび」という形があるようだ。
 秋田では「なづぎ」である。これは古語らしいが、手元の辞典には載ってなかった。
 マンガに出てくる商品は作者のお遊びが隠されていることがあるが、主人公が飲んでいるビールは「ナッタギビール」。ネットではあんまり用例がないので意味がはっきりないが、どうやら「なったぎ」は「いい気になっている」というような状態らしい。「〜になった気」?
 秋田だと「いっきなる」である。
 タイトルの「さっこら」は、さんさ踊りの掛け声だそうな。

 佐藤智一の『メドツ日記』。「めどつ」はカッパのことで、八戸には「メドツ河原」という地名がある。
 なんで「めどつ」?
なっぺど」という表現が出てくる。「なるだろう」「なると思う」というような意味だと思われる。誰がどういう状況で言ったのかは、筋に関わるので秘す。

 小田ひで次の「ひで次くん山へ!」では、主人公は東京在住。帰省するときに、近所の子が「おろ? おずぃちゃん、お出かけかのう?」となぜか方言を話す。この人のほかの作品に出てくるのかしらん。

 あれ、これくらいしかないな。
 とりのなん子の『かもしか温泉』も面白かったが、主人公かカモシカで言葉を話さないので、取り上げづらい。
 一番好きなのは、飛鳥あるとの『キリコ、閉じます!』かな。絵がきれいで、ほかの作品も読んでみたいと思った。

 表紙裏で、岩手県の説明をしている。
 左手で拳を握り自分で見たところ、だそうである。指がリアス式海岸、第一関節が北上山地というわけ。上手い。

 秋田県だって負けてないはずである。
『釣りキチ三平』の矢口高雄、『美味しんぼ』の倉田よしみ、『銀牙』の高橋よしひろ、『編集王』の土田世紀、『あいしてる』の守村大、『プラモ狂四郎』のやまと虹一、『天地無用!』『超神ネイガー』の奥田ひとし、『ガイバー』の高屋良樹。岩手にさいとうたかおがいるなら、秋田には小池一夫がいる。*1
 作ろうと思えば作れそうだね。それがいいかどうかは別として。二番煎じだから。

 アニメにまで範囲を広げると、ジブリ作品の背景を手がける男鹿和雄、Production I.G の後藤隆幸、「ふたりはプリキュア」から「Yes! プリキュア5 GoGo!」までを手がけた東映アニメーションのプロデューサー、鷲尾天も秋田出身である。
 小説のアンソロジーもできそうだぞ。近頃話題の小林多喜二に始まって、伊藤永之介、石川達三、再評価が行われている松田解子、矢田津世子、最近では西木正明、豊島ミホ。脚本家だけど、加藤正人、内舘牧子。
 画家、音楽家、映画監督もいることだし、そういう「叢書」の類を編んでみる、というのも面白いかも。

 よく考えたら、まんが博物館を擁する秋田が先んじなかったのはなんでだろう、って気はする。矢口高雄クラスになって、県外で評価されてからそれに乗る、って気質はあるかもしれない。

 ネットの噂に寄れば、岩手の達増知事は「オタク」らしいのだが…。




*1
この辺、Wikipedia の一覧から、俺が知ってる作家と作品を引っ張ってきただけなので、相当に偏っていると思う。他意はない。(
)





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