Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第740夜

関西人の取扱説明書



 大阪行ったときの話、第三弾。
 正確に言えば、搭乗便の振り替えで空いた一時間で伊丹空港内を探検したときに買った、大阪弁に関する本の話。
 本は、千秋育子 (せんしゅう やすこ) という人の『関西人の取扱説明書』。
 買ったのは「新関西発見」という関西雑貨を扱う店。千秋氏の本職はデザイナーで、彼女がデザインしたグッズと一緒に並んでいた。経歴を見ると松任谷由実なんて名前も出てくる。
 そういう人がこういう本を書くと、単なるエッセイになったり、「クリエイター」と聞いて働く悪い連想ではあるがハチャメチャな内容になったりすることがある。でも、しごく真面目な本。いや、面白おかしい風味はあるんだが、真面目に作ってるって感じが伝わってくる。

 さて、中を見てみる。
 まずは「あなたの中の“関西人度”チェック」。
 項目は 30 あるのだが、予想通り、俺にはほとんど当てはまらない。
 せいぜい、「心の中でよく『なんでやねん』とツッコんでいる」「『はよ、行かな』と思うことが多い」「セカンドバッグを持つことがある」「もんじゃ焼きを食べたことがない」くらいか。
「はよ、行かな」で思い出したが、大阪は歩く速度が日本一とか世界一レベルだとか言う話をよく聞く。では、こないだ行ったとき、秋田の田舎者がその流れに乗れなかった、といえばそんなことはなく、むしろ俺のほうが速かった。走るのはからっきしだが、俺って歩くの速いんだわ。自慢にもならんけど。
 俺のセカンドバッグはかれこれ 20 年くらいになる代物だが、セカンドバッグ自体が流行おくれだと知ったのは去年くらい。気にせずに使う。使い倒す。
 大阪がパンの消費量の多いところだとは知らなかった。

 第二章が「関西人とのコミュニケーション 基本編」。
 この中に、「約束するときは時間をはっきりさせる」「話をするときは結論から」という項目があるのだが、なんか職場で言われてることと同じでげっそりしてしまった。

 話を言葉の方へ持っていく。
 具合が悪そうな人には、「大丈夫か」と尋く。「平気?」と言ってはならない。
 これなんだが、「大丈夫か」より、東京では「平気?」と言う、という方に違和感。そうだっけ?
 個人的には、なんだか「平気?」には「平気である」という答えが返ってくることを期待している感じがある。語義としては交換可能かもしれないが、ニュアンスは全然違うと思う。

「関西弁に気づいたとき、どんな風に声をかけていますか」
 口が裂けても「なまってる」と言ってはならないのだそうである。
「なまる」は「言葉が化ける」と書く (「訛」) ので、言われて喜ぶ人はいないような気はするが、この本によれば、怒りが高じて「誰がなまっとんねん」という反論すらされない、とのことなので要注意なんであろう。みちのくの田舎者は言われ慣れて麻痺してるから、やっぱり反論しないけど。
 この感覚は、「なまる」は関西では小ばかにする意味で使われていることから来ているらしい。でも、関東だって決してニュートラルなニュアンスの言葉ではないような気がする。

 これも語感の話だが、「関西人との電話で打ってはいけないあいづちとは」。
「ええ」だそうである。なんか見下されているように感じるらしい。ふうん。大人になってから使う言葉だから生意気に聞える、という解説がある、確かに子どもは使わんな。

「やんか」の語感。「私、トースト好きやんか」と聞くと、俺も「知らんがな」と思うが、大阪の「やんか」には、「私ってトースト好きじゃないですか」みたいなニュアンスはないらしい。

「関西弁辞典」があるが、中には、関西弁なのか? っていうのが散見される。
 食べ物が腐りやすいことをさす「足が早い」、車の追突をさす「おかま掘られる」、「〜をするとき」という意味の「しな (「帰りしな」「寝しな」)」、「ちょっと待て」の「たんま」、刺身に添える野菜の細切り「けん」、「チリ紙」など。最後のはひょっとしたら「ちりがみ」ではなく「ちりし」か?
けん」と「つま」は地域差ではなく、別のものを指しているという説もある。
ひらう」は、関西弁だが「変換できる」と書いてる。パソコンで漢字変換できる、という意味だと思うんだが、Windows の MS-IME では変換できなかった。ケータイかと思ったが、俺の SHARP 製のやつではやっぱりだめ。
モータープール」が関西弁なのは確かだが、秋田駅前の駐車場があるビルにこの名前の美容院がある。経営者がどこの人かは不明。

 その「新関西発見」という店、中央ブロックの一階にあったのだが、今、空港のホームページを見てみたら、出てこない。まさか閉店した? うわぁ…。




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