Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第708夜

語源遺産 (後)



地団駄は島根で踏め 行って・見て・触れる《語源の旅》 (わぐりたかし光文社新書)』の紹介、後編。

「うだつ」は前にも紹介した様な気がする。屋根の端にくっつけた小さな屋根状のパーツで、一応、火事の延焼防止用ということになっているが、あんまり効果はないという説もある。
 これが「卯建」なのは、屋根の両端にくっついてるのがウサギの耳に見えるからだとか、「卯」っていう字を二つに割ってくっつけたようだから、とこっちも色々説がある。
 あと、物乞いに身をやつした帝釈天に、自分を食べてもらおうと炎の中に身を投げたウサギの説話があるが、帝釈天はそれを冷たい炎に変えてウサギを助けたことから、ウサギは防火のシンボルでもあるらしい。
 ここで登場する異説は「夜這い防止」というもの。屋根にあるものだから、不届き者は浸入しづらくなる。
 うだつは出世と結び付けられるが、うちはお嫁さんを大事にしますよ、ちゃんとお金もありますよ、ですからどうぞ安心して嫁に来てください、というアピールだという。

 わぐり氏は前書きで、国語学や言語学の研究所ではない、と明言している。確かに、ちょっと無理のある (あるいはユーモアの過ぎる) 解釈や推理も散見されるが、これって正しいんじゃね、というのもある。
「うんともすんとも」は、反応のないことを言う言葉だが、日本国語大辞典では、ウンを 1、スンを最高点とする「ウンスンカルタ」から来ている、としているそうだ。
 が、熊本の人吉に行った氏は、「ウン」は 1 ではなくスンに次ぐカードであることを知る。またしても辞書が間違っている。
 で、子ども達がやっているのを見たわぐり氏は、自分の手札を読ませないようなポーカーフェイスのことではないか、と推理する。これ、正しいんじゃないかな、って気がするんだがどうか。
 尤も、ちょっとググってみると、「ウンスンカルタは幕府によって禁止されて消えていったので、ないことを示す」「ゲームに行き詰っている様子」「ゲームに熱中して誰も口を開かない様子」などなど諸説紛々である。

 秋田は一回だけ出てくる。「うやむや」である。
「有耶無耶の関」が秋田と山形の県境、象潟と遊佐の間にある。歴史上の、歌枕でもあった「有耶無耶の関」はここだけでなく、山形と宮城の間にある笹谷峠だという説もあるのだが、どちらにも同じ言い伝えがあるそうだ。
 手長足長という化け物がいて旅人に恐れられていたが、そこに三本足のカラスが現れ、その化け物が現れると「有や有や」、いない場合には「無や無や」と言って知らせたという。
 これって八咫烏 (やたがらす) だと思うんだけど、あの人って太陽の中に住んでるんじゃなかったっけ。

「後の祭り」が載っている。
 この「祭り」は祇園祭のことなのだが、「後の祭り」というのはその後半戦である。先の祭りよりも寂しいから、というのが辞書的定義らしいが、実際の「後の祭り」はちっとも寂しくないらしい。
 わぐり氏は、祭りが終わった後の山鉾の解体が素早いことを言っているのではないか、と考えている。つまり、「後の祭り」自体は決して寂しくないのだが、ちょっとタイミングを外すと山鉾を見ることができない、ということを指している、という意見。
 組み立てるのに一週間かかるのに、解体は数時間だそうだ。これは、町内を回って穢れを一身に引き受けた山鉾をいつまでも外に出しておくわけには行かないから、という説明があった。

 学祭でやる模擬店の名前を「あとのまつり」として周囲の失笑を買ったのは、俺がまだ十代の頃の話である。

「どろぼう」は、「取り奪う」の変化だという説もあるらしいが、ここでは「土呂坊」としている。
 これは、三河の土呂にあった寺である。16世紀中盤に起こった一向一揆に手を焼いた徳川家康は、一揆を鎮圧した後、その拠点となった寺を徹底的に破壊した。
 一揆だから「泥棒」行為も行われたに違いないが、一揆の原因となったのは逆で、家康の家臣が寺の米を奪ったことだったそうだ。先に泥棒を働いたのは武士の側だった。
 だが、歴史は権力者のもので、「土呂坊」の仕業だ、として窃盗行為を土呂の坊主たちになすりつけた、それが今にも残っている、というわけだ。

 巻末には、本当かどうか知らないが続編の予告もある。
「外堀を埋める」が大阪なのは有名な史実なので今更説明の必要もあるまいが、ときどき間違った使い方を見かける。
 これは、城を守るための堀を埋めて攻めていくことで、「外堀が埋まった」というのは非常にやばい状態を指すのだが、たまに「足場を固める」というプラスの意味で使っている例を見る。
 あぁ、俺も「正しい日本語」的なことを言ってしまったよ。




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