Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第706夜

わちが三代目じゃ!



 こないだの「あ、安部礼司」、ゲストが浅香唯だった。
 浅香唯は今月でデビュー 25 年ってことで大々的にキャンペーン中。その一環だったと思われる。
 役どころは、主人公・安部礼司の奥さんであるところの優ちゃんのママ友、その名も「三代目スケバン・ママ 風間々唯」。なんじゃそりゃ、って感じだろうが、この番組そのものがコメディなのであまり深く考えないで欲しい。
 台詞回しが一々「スケバン刑事 III」風なので声出して笑いながら聞いた。

 ということは、原形は「スケバン刑事 III」の「風間唯」なので、浅香唯はずっと宮崎弁。例外は、途中で優ちゃんがトレンドについていけてるのかどうかを試すクイズのときだけ。「スケバン」風宮崎弁は久しぶりに聞いた。
「『スケバン』風」と書いたのは、おそらくリアルではないだろう、と想像されるからで、やっぱり全国向けのドラマに乗せる以上、ある程度、間引かれていたり、逆に、現在 (放送当時) はほとんど使われていない表現が使われていたりする、と考えるべきである。

 実はその筆頭が「わち」だと思っていた。
 これは風間唯が自分のことを言うときに使う語で、今まで、スケバン刑事や浅香唯のことを取り上げるたびにググってみてたのだが、ほとんどヒットしなかった。短い単語だからノイズも拾ってしまいやすいのだが、子どもっぽく聞えることと考え合わせて、彼女が末っ子であることを強調するためにどこかから拾ってきたのではないか、と思っていた。
 今回、性懲りもなく調べてみたら、宮崎市の FM・サンシャイン FM の中のページがヒットした。
 どうやら番組中で方言クイズを出しているようで、その紹介らしい。ということは「わち」という一人称があるのは間違いない、ということになる。
 ただ、依然としてググってもヒット数は少ないし、「年寄りの言葉だ」という意見もあるようで、あんまり使われていないのではないか、という疑いは残る。

 放送当時、脚本を書くための参考に、プロデューサーが浅香唯の母親に宮崎弁のリスト作成を依頼したそうである。それ系の雑誌が手元にあるのだが、その一部が掲載されている。
くせらし」というのが面白い。ここでは「大人ぶる」と書かれているが、ウェブでは「生意気」という説明もある。語源は不明だ。
 風間唯はよく敵の男を「きさん」と言っていたが、この一覧では「博多弁」という注記がある。母親が書いたのかどうかは不明だが、宮崎弁ではないことはわかって使っていたようである。

『最新 一目でわかる全国方言一覧辞典(学研、1998)』『都道府県別 全国方言小辞典(三省堂、2002)』あたりを見てみた。
あたれー」は「もったいない」という意味だそうだ。どうやら「あたらし」という古語らしいのだが、古語辞典を引いてみたら「可惜し」と書くらしい。「あたら若い命を」とかいうあれだと思う。
しゃち」が「弟」でびっくりしたんだが、ひょっとして「舎弟」かと思って調べたら当たりらしい。兄は「すりょ」で「総領」だとか。それからすると、ひょっとして「しゃち」は、「次男以下」だったりしない?
「手伝え」という意味の「かせいして」は、おそらく説明無しで理解されると思う。
あば」は「新品」だそうだが、語源不明。ちなみに秋田では「おばさん」である。
『一覧辞典』は「えじい」を「賢い」としているが、ググってみると「ずるい」としている記事が多い。まぁ、接点はある。
こっせん」というのは、どうやら新方言らしい。宮崎市の若者が使う言葉で、「じゃない?」というような意味だそうで。「てっげかわいいこっせん?」で「すごく可愛くない?」という意味になる。『小辞典』は若者言葉という注釈をつけているが、『一覧辞典』にはない。

 今回の放送では「〜やじ」という語尾が何度か聞かれた。「〜よ」「〜だよ」に相当するらしいが、「わちらの戦いは始まったばっかりやじ」「日向夏やじ」などという表現が出てきた。
 これは確か「スケバン刑事」では出てきてなかったと思う。いや、一回も出てきてないか、って聞かれると困るが、少なくとも俺の記憶にはない。DVD あるから見直せばいいんだろうけど――って、42 話+スペシャル+映画とあるのでそれはちと勘弁して欲しい。続けて見たら丸一日かかる。まぁ、そのうちって感じ。やるのかよ。




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