Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第666夜

交通安全秋田弁川柳 09



 交通安全方言川柳を取り上げるのは四回目。
 応募者も作品数も昨年比で微増。定着した、と見るべきか。
 公開している PDF は、一昨年が 63KB、去年が 173 KB と 3 倍弱に増えて大分びっくりしたのだが、今年はなんと 375KB. 何でそんなことになるのやら。

最優秀賞
じょじゃするな慣れたきゃどほど右ひだり
(おろそかにするな。慣れた道ほど右左をみなさい)
 いや、聞いたことなかったわ、「じょじゃする」は。
 対訳によれば「おろそかにするな」ということらしいのだが、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』にも『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』にも載っていない。勿論、ネットにも例はない。ピンポイントでこの川柳の記事がヒットする。
『秋田のことば』で似た形の語を探してみると、「じょしぇする」というのが載っている。意味は、「油断する」「粗末にする」「いい加減にする」だそうだから、この語だと考えていいだろう。
 静岡では「ぞんざいる」、山梨では「ぞぜーる」という形があるらしい。となると「ぞんざい」との関連を疑いたくなるが、「如才」なんだそうである。
じょしゃね」を見ると、「手抜きがない」という意味であることがわかる。「如才ない」である。
『秋田のことば』は、「如才」を「手落ち」「手抜かり」としているが、『語源探求』はもう一歩つっこんで、元は「神が存在する如し」だったのが、「如在」と書くようになって「あるがまま」という意味に変わってしまい、「ぞんざい」「なおざり」「油断」ということになったのだそうだ。ひー、難しいなぁ。
きゃど」はおそらく、応募作の中でも使用頻度の高い語であろう。

優秀賞
どさ乗てもメドクシェがらずベルト締め
(私はどこに乗っても面倒くさがらずにベルトを締めます)
 これはおそらく、後部座席でもシートベルトを締めなければならないことになったから。
メドクシェ」に解説の必要はあるまい。「ひやみこぐ」でもいいのではないかと思ったが、よーく考えてみると、「ひやみこぎ」は「面倒くさがり」ではない。『秋田のことば』では「怠け者」という訳を当てている。無精者について「ぶしょたがれ」という語はあるようである。
 訳は「締めます」でいいのだろうか。

佳作
はんしゃ材つけねばなんもやくただね
(反射材は身に着けなければ何の役にも立たない)
 時々自治体でお年寄りに配ってるニュースを見るような気がするが、持ってるだけでは役に立たない、ということ。でも、つけてる人、見ないなぁ、依然として。黒とか紺色のジャージで夜にランニングしてる人いるけど、あれはマジで怖い。
やく」は「やぐ」じゃないのかなぁ。

ふるさとのけどばだ供花(くげ)をかざるまい
(故郷の道端にお供えの花を飾るようなことのないようににしよう)
 今回のヒットである。ブラックな感じが。
けどばだ」は「街道端」で「道端」のこと。たまに、交通事故のあった交差点なんかに酒と花束を置いてるのを見かけるが、あれのことであろう。

「まだわげで!」その思い込みあぶねなだ
(まだ若いよ! その思い込みが危ないのだ)
 その通り。車に乗ってても、自転車に乗ってても、あーこの人は自分の意図どおりの速度で動けてないな、って人を見かけることがある。
 尤も、最近は人のことは言えなくなってきている。回りに人がいるのに気づかないで方向転換したり、なんてのは多いなぁ。

きゃどわだるほっぱらみにゃでみぎひだり
(道を渡るときは、余所見をしないで、右左を見なさい)
 この「ほっぱら」もわからない。
『秋田のことば』に「ほっぱらむぐ」があった。「ほっぱら」で「そっぽ」らしい。「頬傍」と書くのだそうだ。
 で、「そっぽ」だが、『語源探求』を見てみたら「頬」とある。県南地方で使われるらしい。こちらは「外方か」としている。
「頬」については「ほた」「ほたんぼ」の形もある。これも「頬傍」だろうか。『語源探求』は、後半の「た」を「みみたぶ」の「たぶ」としている。

アッわらしこだゆっくり行くべナ、父さん
(あ、子供だ。ゆっくり行こうね、お父さん)
 子供も怖い。
 それはしょうがないものとするなら、それをほったらかしにする親も怖い。
 おそらく老夫婦が乗っているのだろうが、男性が運転している図は性差別とかいうことにはならないのだろうか。

 去年の自分の文章を確認していて気づいたのだが、過去の応募作品はもう読めなくなっている。
 毎年やってるんだから、去年のはもういらないってことなのかな>県




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