Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第649夜

耕耘機



 今年のゴールデンウィークは極めて大人しくすごした。
 そもそも 5 日しかない。景気関係で話題になったように 16 日欲しいかって言われると流石に躊躇があるけれども、5 日というのは複数のことをするにはちと足りない。初日に自転車の練習に行き、真ん中は実家に帰り、後半は体力涵養で大人しくして、で終わった。
 今年は 9 月にも 5 連休がある。その前にお盆休みもあるわけだから、薄利多売系の連休構成になっている、ということになろうか。
 9 月のを「シルバーウィーク」としている向きもあるようだが、本来「シルバーウィーク」は 11 月の勤労感謝の日前後のことを言う。まぁ、普及度はゴールデンウィークの比ではないので、こんな風に意味がころころ変わるのも止むを得ないか。

 実家にはちょっとした畑がある。
 基本的には両親がやっているが、節目では専門家の叔父がやってきて色々と世話をしている。
 今回、びっくりしたのは耕運機を持ってきたこと。叔父は農業系の公務員であって農家をやっているのではない。本人も、いいオモチャ買ってしまった、と言っていたが、その気持ちはよーくわかる。
 びっくりとはいいつつ、あちこちのサイトを見たところでは、小さいものだと 10 万を切るようだ。まぁ、大人の趣味の道具としてはべらぼうな値段というわけでもない。俺のバイク (自転車) と同じレベルの額だ。
 調べてみてへぇぇと思ったのは、ホンダがコンロ用のカセットで動く耕耘機を出していること。滅多に使わないのならそれもいいかもしれないな。
 目的別にいろんな種類があるらしいが、「管理機」というのがなんだか、結局わからなかった。さすがにここの趣旨から外れるのでこの辺にしておく。

 農機具と方言と言ったら、まずは何をさておいても「たまぐら」であろう。「くされたまぐら」「ぼっこれたまぐら」のあれだ。金属パーツを木の棒に固定するために締める輪っかで、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』によれば、万葉集に「玉釧 (たまくしろ)」として登場するらしい。
 苦手な人にはもうしわけないが、大きいミミズのことも言うそうだ。白いところが太いのいるじゃん。あれは「環帯」と呼ぶそうである。はい、気持ち悪い話題終了。

 ところで「輪っか」の「っか」って何なんだろうな。調子を整えるためのおまけか?
 なお、この MS-IME の辞書には「輪っか」は登録されていない。

 ググってみて気になったのだが、多摩や茨城の一部で、耕運機のことを「てーらー」と言う、という記事がいくつかある。
「テーラー」というのは後ろに台車などをつけて引っ張るタイプのもので、厳密には耕耘機とは別のものらしい。
 例も少ないので、関東方言と考えていいのかどうかは疑問。
 で、後ろにつけて引っ張るんだから“tailer”なのかと思ったら、“tiller”らしい。「ティラー」が「テイラー」になったのだろうか。

 鍬の方に行ってみる。
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』にはその俚諺形は見当たらない。
 柄を「かで」、台木の歯をはめてある部分を「あげ」と言う、という説明はあった。
 鍬と言うと、金属の板と、そこに通してある柄という構造のものを思い出す人も多いと思うが、柄の先が板状になっていてその板の周囲に金属をはめてあるものもあるらしい。その板をなぜか「風呂」と言う。この「風呂」が「あげ」なのかどうかは不明。

 徳島に面白い方言がある。徳島県立図書館にある阿波学会の紀要によれば、柄の角度が大きいため役に立たないことを「のかな」と言うらしい。振り上げて土に刺すには「レ」になってないとしょうがないわけだ。
 新潟には「とうが」という形があるようだ。片手で扱える小さなもののようだが、「唐鍬」かという説あり。
 山陰や四国には「てんが」もある。「手鍬」だそうだが。
 フォーク状になったものは「備中鍬」というらしいが、「備中」「びっちょ」などの形が散見される。

 鋤は俚言形見当たらず。尤も、それがどういうものなのか今回まで知らなかったが。
 鶴嘴もない。
 なんでこんなに少ないんだろう。生活に密着してるし、その土地土地の産物や作業形態によってバリエーションがあると思ってたのに。探し方が悪いのか?
 尤も、バリエーションを「鍬 AND 方言」で探そうってのが間違いなのかもしれないが。
 方言集には写真と一緒に山のように掲載されてるとばっかり思ってたよ。

 両親にカセットコンロ耕耘機でもプレゼントしようかと思ったが、聞くところによると耕耘機と言うのはあまりバランスの良い機械ではなく、扱いを間違うと簡単に事故るものらしい。ビデオデッキの扱いに苦戦している現状を鑑み、やめておくことにする。




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