Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第643夜

ふるさと日本のことばの本 (後)



 2000 年に NHK でやってた「ふるさと日本のことば」の本、北海道・東北編に借りた文章、後編。

 山形県。
 果樹園での会話、「実をもぐ」に訳がある。そういえば昔、「観光もぎとり園」ってのを見つけた、って書かなかったっけか。
 踊りの師匠が言う、「手べらっと出ってんだじぇ」の訳が「手を出してしまうのよ」で、「べらっと」が落とされている。訳をつけるのは難しい語だが。
 酒田で「もっけ」は「ありがとう」だそうだ。「勿怪」で「思いがけないこと」らしい。英語で“happy”が“happen”と同根なのと似た発想か。
「勿怪」が「ありがとう」になるのは、庄内の人がものをよい方に捉えるかららしいのだが、じゃぁ、イギリス人もそうなのか?
 米沢の「おしょうしな」も、「商事」という「まれなこと、おどろくべきこと」から来たのだそうだ。これが「笑止」となり、秋田で「恥ずかしい」を意味するようになったが、山形では「ありがとう」のまま。
 ここで、「そんなにしていただくとあなたに気の毒です」という説明があるが、これって、富山の「きのどくな」の説明じゃないのかな。

 岩手県。
 農家の人の発話の、「あいずずればなぁ」に「暑ければなぁ」という訳。よくわからん。
 よくわからんのはその次のパラグラフ。
 秋田の朝市におけるパラグラフがボコっと出てくる。なぜかそんなところに同じものがはまっている。編集ミスだろうな。
 岩手が北東北方言と南東北方言の境界線上にある、というのはいいとして、北東北方言を「関西方面から日本海を渡ってきた」という説明はひっかかる。東北弁は関西方言の変化したものなのか?
 ケセン語で、「あがりぃ」に「よくわかる」という訳を当てているが、何度か読んでやっとわかった。「わかりいい」で「わかり易い」だろう。黙って「わかり易い」と書けばよかったのに。
 水に落ちることを言う「かっぱとる」は「川入る」の変化したものだそうだが、子供がおねしょしたことは「たらをとる」らしい。開いて干すから、って説明があるが、難しいなそれは。
「フクロウ」を指す「おっぽ」でどぶろくのことを指す、とあるが説明が舌足らずすぎる。「どぶろく」が「密造酒」である、という感覚が薄れているからかもしれない。それに子供向けに脱税の話したって、とか思ったのかもしれない。だったら取り上げるべきでない。。

 宮城県
 ここでも区切りがおかしい。初夏の気候が「清々しい」ことについて:
すがすがすいす
ですよ
 さらに、岩手の居酒屋での言葉が、仙台の居酒屋のシーケンスに出てくる。
 そうかと思えば、「もぞこい (かわいそう)」を「おぞこい」と書いてたりする。グチャグチャである。

 福島県。
「大きい」が「ずない」。
 小皿のことを「てしょう」と言っているが、これは福島に限ったことではなく、関西でも東海でも言う。あれ、関西から流れてきたのは北東北弁じゃなかったのかなぁ。
 ちなみに、「手塩皿」がもとだという説が圧倒的だが、「手掌皿」という説もある。
 福島は無アクセント地帯だが、それを補完するため、「アクセントで区別する代わりに発音が変化」という説明はどうだろう。アクセントは発音じゃないのか。「柿」が「かじ」になるというんだから黙って「音」でよかったんじゃないか。

 なんか南にいくにしたがってコメントが減ってくるが、これはやっぱり俺にとっての距離の問題だろうか。はぁそうですか、以外の感覚を抱くのは難しいようだ。

 さて、テレビでもそうだったが、各県の残したい言葉が 10 個ほど挙げられている。それを横に並べてみた。
めんこい」系が全県で出てきている。なるほど。
おしょし」系が 4 県、「あずましい」系が 2 県、「いずい」系も 2 県。
 肯定的な表現が多いのはやはり「方言はあったかい」って発想によるんだろうか。
 あとは挨拶系。全県にあるのは勿論、複数上げている県もあり、岩手が 3 つで最も多い。
 青森と福島に名詞が多いが、それはまぁ偶然であろう。
 必ずしも肯定的表現だけではない、「しばれる」「やばつい」「ごんぼほる」などネガティブな表現も決して少なくはない。
 語尾や間投詞が少ないのは意外。

 本全体についてだが、写真が粗い。どうもテレビ画面から取ったものらしい。雑誌やなんかでは、安いデジカメで撮ったろ、というような粗い写真を見ることがあるが、そんな感じ。縦横比もおかしいような気がする。
 それに、この文章にも書いた。他の件の表現が入り込んでることがある。
 作りが雑。
 これではほかの地域の分を買う気にはちょっとなれない。




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