Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第622夜

ゆるキャラと方言



 先週、「ゆるキャラまつり」が彦根で行われた。
 この文章を書いているのはその当日なのだが、今のところ、アクセス過多でオフィシャル ホームページが表示されない。負荷見積もりを激しく間違った模様。
 全部で 46 キャラが登場するらしい。ほぼ一県一キャラ。秋田から行ったのかどうか、行ったとして誰が行ったのかは不明。「アクセスできません」のページに出てきた画像の範囲では、見覚えのあるキャラは見つからなかった。
 ほぼ一県一キャラ。
 つまり、これはある意味、地域代表なわけで、だとすれば方言ネタも転がっているであろう、と考えた。
 まつりのオフィシャルデータが見られないので、Wikipedia で「ゆるキャラ」を調べてみたが、記事のみで一覧は無い。そこから「マスコットキャラクター一覧」に飛ぶと、ゆるキャラを含むリストがある。そこで「自治体」を見てみた。

 ない。
 びっくりした。
 方言をネタにしてつけられた名前が見当たらないのだ。
 唯一、「長崎さるく博 '06」の「さるくちゃん」がいるだけ。
 これだって厳密に言えば、博覧会の名前であって、キャラの名前ではない。どうしたことだろう。

 一応、「さるく」について。
 長崎を含む九州地方で使われる。福岡、熊本、宮崎辺りの例が見つかる。
 簡単に言ってしまえば「歩く」なのだが、「ぶらぶらする」の方が正確。自転車や車で「さるく」こともあるわけだ。
 一説には、「さ」が指小辞で、「ちょっと歩く」「散歩」てなことから来た、とも。
 この長崎さるく博は、その名前が示すとおり、ある区画にパビリオンをボコボコ建ててその中でこじんまりとやる (大会場もあろうが) という形ではなく、すでにある町並みそのものを会場として、歩き回ってみてもらう、という形の博覧会である。
 で、「さるく」を、多くのイベントの類がそうであるように、「散歩」+「歩く」の造語だと思っていた、という人もいた由。

 というわけで方言の話おしまい。
 なんでだろうねぇ。
 キャラのネタとして多いのは、名物、有名人、地名、伝説のもじりあたりか。もしくは、ローカル色を持たない、ペットの名前みたいなの。
 ってことは、方言形が入ってくる余地はほとんど無いわけだ。やるとしたら、抽象的、観念的なことをキャラクターとして具象化する、という方向。「さるく」なんかはそのパターンか。
 つまり、具体的な「モノ」がかかわってくると、それの方言形がない限り、方言を使った名前は出て来にくい。秋田市で言うなら、上下水道のマスコットは「カンちゃん」。みたまんま、水道管である。
 納税なんかはどうだろう。金をそのまま出すとゼニクレイジーになっちゃうから、抽象化するしかあるまい、と思ったら、「ゼイキッズ」はタックス星から税金について学ぶためにやってきた、というローカルヒーロー系なのだった。

 こういうのは、関心を持ってもらうというのが目的である。
 奈良で妙な揉め事になっているが、これなんかは、逆に宣伝効果大である。今回のゆるキャラまつりで和解したらしいのだが、もうちょっと揉めてた方が良かったんじゃないの。
 知名度と言う点では、静岡県函南町のキャラクターは「カンちゃんナミちゃん」。ちょっと怖い顔なんだけど、この名前から割と読みにくい町名の見当がつく、という効能もあったりする。
 難しいといえば、斑鳩町の「パゴちゃん」も難しい。仏塔の「パゴダ」からなんだってよ。

 というわけで、方言の文章としては不発に終わった。
 もともとローカルネタのところにわざわざ方言を持ち出したりしない、ということなのかもしれない。
 それにしても、Wikipedia の、「ゆるキャラとして認知されているものの多くは、官公庁や自治体のマスコットキャラクター」という記述は色々と深い。




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