Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第621夜

An Average Aviator



 日曜 17 時、tfm で放送中の人気番組「あ、安部礼司」。
 基本的にはラジオドラマ。どこにでもいそうな平凡なサラリーマン、安部礼司 (“average”のもじり) を主人公に、トレンド情報を大量に交えつつお送りする、ナイス サーティズに向けての鼻歌のような応援歌である。
 きっかけは、自転車仲間。
 たとえば仙台で日曜に行われるレースに参加すると、帰途で高速に乗った辺りでちょうどその時間。なかなか面白いとは思いつつ、俺はその時間、週末に放送されているテレビ番組を 9 時くらいまでかけて消化している最中で、なかなか FM を聞こうという雰囲気にはならない。そのため、自転車シーズンに 1、2 度聞く、という程度だった。
 だが、今年になって様相が変わった。ダメリーマンだと思っていた安部礼司が、同僚の倉橋優といい雰囲気になって、なんとデキ婚だというではないか。こーれーにはびっくり。
 同時期、妹夫婦も聞いててお気に入りだ、という情報も入ってきたので、わざわざテープに録音して後から聞くようになった。だから、まともに聞き始めてやっと半年というところである。

 さて、この人気番組、ときどき地方の局に顔を出すらしいのだが、先週の放送は沖縄だった。
 われらが安部礼司、ついに男子が誕生したのではあるが、まだ名前を決めていない。優ちゃんの体も心配だし、ということでテンパった状態になってしまったので、悪友のイケリーマン、刈谷勇にひきずられてメンソーレ沖縄、という設定。

 番組中では、この辺りでトレンド情報。
 全日空では、沖縄旅行のキャンペーンをやっているのだが、その名前がなんと「マッタリーナ→ホッコリーナ→OKINAWA」。ぶっとんだぜ。
まったり」も「ほっこり」も、元京都弁ながら、本来とは違う意味で使われている方言。それを沖縄旅行のキャンペーンの名前にするとは。二重にねじれているじゃないか。

 で、安部礼司と刈谷勇が、地元のパーソナリティに連れられて相談しに行ったのは、「知念のおばちゃん」という「ユタ」。
 もう「ユタ」の説明は要るまいが、俺って最近まで、「ユタ」って東北地方のものだと思っていた。理由は、NHK の「ユタとふしぎな仲間たち」。沖縄のシャーマンのことだって知ったのは、おそらく「ちゅらさん」に始まる沖縄ブームの頃だと思われる。
 パーソナリティが口にした「まかちょーけー」は「任せておけ」だと思うのだが自信ない。

 実際に行っているのは、安部礼司と刈谷勇を演じている小林高鹿杉崎真宏という役者。当然だが。
 この二人が安部礼司と刈谷勇として相談を持ちかける。「知念のおばちゃん」の方は俳優ではないようで、そのせいか二人の雰囲気も芝居と素の中間くらい。
 おそらく台本に添った形のやり取りなんだとは思うが、ある種、不思議な感じのシーケンスだった。

 おばちゃんが言ったのは、「とにかく頑張って、自分で名前をつけてみろ」ということ。それで、お父さんとしての道が開ける、と。
 そのときに言った、「やーのなかじんばしら」が、わかったようでわからない。
 前半は「家の中」だと思うんだが、後半は「心柱」「芯柱」だろうか。
 音に忠実になるなら「じんばしら」か。「内陣柱」という語はあるらしいのだが、これは神社の構造の話らしく、ちょっと沖縄とは合わない。
 あ、と思ったのはその次。
 おばちゃん、「やまとに帰ったら」と言ったのだ。
 おーすげぇ、やっぱりこういうの生きてるんだ、と感動したことであった。

 オフィシャルからは、このときの様子が音声で楽しむことができる。
 案内を務めたまーちゃんという人が琉球方言でまくし立てるシーケンスがあるのだが、それは本当にわからない。
 紹介できそうな表現としては、「まーす」。塩のことらしい。
 このときの安部礼司と刈谷勇のやりとりは、素の割合が高かったと思う。

「あ、安部礼司」には、大阪出身の西久美子、熊本出身の南総サトミなど地方出身者も多い。特にニシクミは普段から大阪弁、もしくは大阪弁イントネーションで話す。南総の方はポイントだけである。
 神尾結衣子という岩手出身者もいるのだが、まだ聞き始めて半年しか経ってない関係で、どういう言葉遣いをするのかは不明。

 結局、子供の名前は、永太。
 安部永太は“aviator”のもじりだと思われる。

 聞き始めて半年の俺が言うのもアレだが、最近、登場人物が増えてきている。出番のバランスとかちゃんとついているのかな、とちょっと心配。
 ブランクを埋めるべく、脚本集を注文してしまった。届くのはクリスマスのちょっと前。楽しみだ。




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