Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第614夜

車模様



 毎年恒例、交通安全方言川柳。
 いや、俺が取り上げるのはまだ三回目だが。

 今年は応募者が二割増。前に、2004 年と 2007 年とでは 4 割減と書いたが、俺の文章を読んで関係者が発奮したかいいえ違います。
 早速、作品と標準語訳を。

最優秀賞
ろがらり自転車どいだ
(後ろから突然、自転車が出てきてビックリしたことよ)
 ついでなのでイントネーションもくっつけてみた。「後ろ」が頭高になるのは秋田弁の特徴。
どでこぐ」は、「動転」の変化で、「こぐ」はマイナスの特徴を持つ動作に使う。
 ルールを守らない自転車は多い。それが当然のような顔をして右側を走るし、規則が改正されてもヘッドホンはやめないし。いや、昔からダメだったらしいのだが、改めて禁止されたことで、音楽を聴く時間がまた短くなった。
 今回の改正で、歩行者と自転車が並走可になっている歩道では、歩行者は自転車の通行する部分を空けておく努力義務が課されたんだけど、知ってる人どれくらいいる?

優秀賞
もどらねでちゃっちゃっどわだれしゃべてねで
(途中で戻ったりしないでさっさと渡りなさい。おしゃべりしていないで)
ちゃっちゃど」じゃないのかなぁ。秋田弁としても川柳の音の数としても、「ちゃっちゃっど」では合わないような気がするんだが。
 途中で戻る人はあんまり見ないが、どう考えたって間に合わないだろ、ってタイミングで渡ろうとする人はよく見る。あと、4 車線の国道を渡ろうとする人もな。死ぬぞ、そういうことしてると。

佳作
うるだくな道路 (きゃど) さ出るどぎ先ず止まれ
(慌てるな。道路に出るときはまず止まりなさい)
きゃど」は「街道」の変形。
うるだく」は、正確には「うるだぐ」の様な気がするんだが、地域によっては「うろだぐ」の形がある。「うろたえる」の変形。
「うろ」は、「うろうろする」なんかも構成する要素らしい。なんとなく雰囲気はわかる。

めどだども命あってのベルトだべ
(面倒だけれども、命あってのシートベルトでしょう)
 なんか論理展開がねじれてるような気がするんだが。
 俺はシートベルトを面倒だって思ったことないなぁ。習慣になってるからか。締め付けられるのが嫌、って人もいるようだが、締め付けられるって感じもしない。メガネを胸のポケットに入れてるとベルトの位置には気を遣うが。いやそれ以前に、メガネをポケットなんかに入れちゃいかんのだが。
 話は変わるが、この夏、自転車用に度入りのサングラスを買った。これがまた滅法、具合がよい。コントラストを上げる効果もあるらしくて、マジでよく見える。それなりに値段は張ったが、お勧めしておく。

おめ飲めばクルマも酔うなだおべでおげ
(お前が飲めば、車も酔うのだ。覚えておきなさい)
 これ、着眼が面白いよね。確かにその通りだ。
 飲酒運転も運転中のケータイも減る様子がないけど、多分、機械を操作しているって意識がないんだろうな。歩くのと同じようなレベルで捉えているんだろう。そういう意味では、「車も酔う」のと逆の意味での一体性を感じている、ってことになるのかもしれない。

ほじ無 (ね) ぐし命も無 (ね) ぐすその一杯
(正気を無くし、命も無くす、その一杯)
 川柳というより、標語してまとまっている。
ほじ」は「方図」と「本地」の説がある。
「方図」は字面から想像できる通りで、「こっからここまで」というような範囲、「限り、限度、際限」というような語釈があたえらえることが多いが、そこから、「方図がない」で、道理が通らない、無茶だ、いい加減だ、というようなことになる。
「本地」も字面でわかるが、本来あるべき姿、というような感じ。そこから、「本地がない」は、正体を失っている、というようなことになる。
 一部の地域では、「ほじね」で、ありがたい、もうしわけない、という意味になるところがあるらしい。これって誤解を招きそうな気がするなぁ。何かモノをあげたときに「ほじね」って言われたら、気を悪くしない?

暗 (くれ) ぐなたちゃんとつげたが反射材
(暗くなりました。反射材をちゃんとつけましたか?)
 俺、反射材をつけてる人って、ほとんど見たことない。浸透してないねぇ。
 こないだ仕事から帰るとき、妙に大きいシルエットが目に入って思わず減速した、ってことがあった。上のほうは明らかに人間一人分なんだが下が大きい。人というよりモノなんだが、自転車にしては投影面積が大きい。近くまで来てやっと乳母車であることがわかった。自転車もさることながら、乳幼児用の車こそ反射材が必要じゃないのか。
 車を運転する人なら、車の中から外を見ると、歩いているときより暗く見えるものだ、ということは知っているはずだ。
 そういう風に展開ができない人が、飲酒運転とかしちゃうんだろうね。

 これは秋田県のホームページで公開されている。
 標準語訳が「背後から 急に自転車 びっくりした」とか、逐語訳になってるのはなぜだろうね。PDF が 173KB と、去年の 3 倍弱になっているのも不思議だが。
 そのページの更新日付によれば県が発表したのは 8/8 だが、新聞に載ったのは 8/21、テレビのニュースで流れたのはさらにその後。緊急性のある情報ではないが、ないがしろにされてた、と言ってもいいんじゃないだろうか。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第614夜「なまらナイト」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp