Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第613夜

雨の仙北紀行




 盆休みに友人が田沢湖に遊びに来たので、迎撃した。

「迎撃」って表現もなんか懐かしさを感じる。
 ググってみたらやっぱり軍事関係ばっかりがヒットしたが、「オフ」とか「友達」とかと組み合わせると、結構な数がある。まだ残ってはいるらしい。

 今年の盆休みは後半にエラい天気になったが、その日も大雨で、田沢湖に行く途中も一瞬だが雨で前が見えなくなったりして運転中に割と怖い思いをした。
 彼らのチェックアウト時刻にあわせて行ったのだが、とても外出できるような状況ではない。しばらくラウンジでおしゃべりしたが、そろそろ昼飯のことを考えたほうがいい、てな時間になったので腹を決めて出発。
 まず北半分を回ったのだが、御座石神社では降りられず通過。そのうちに何とか収まってきて、なんとか たつ子像のところでは小雨になったので散歩。
 その友人、編集者なのだが特撮オタクでもあり、水面を見ながら、「湖のひみつ」「許されざるいのち」「フォートレスフリーダム」などで一頻り盛り上がった。時折、奥さんの突っ込みが入るが、突っ込み具合と放置具合が絶妙で、「わかっている」という感じ。
 時間もあまりないので一周は諦めて角館へ。
 いつからかバイパスができているのだが、行き先表示板に書いてある地名がすごい。
武家屋敷
 つか、地名じゃねぇ。観光の視点から言ったら適切すぎるとは言えるが。
 駅前で飯。俺は神代カレーを食ったが、彼らは本物の比内地鶏と稲庭うどん。ホテルでの夕飯も含め、しきりに食い物のことを褒めていたのが印象に残る。
「神代カレー」は、昔風のソースをかけて食うカレーと、今風のこってりしたカレーを飯を挟んで両側にかけてあるもの。卵ものっている。昔風のほうは肉ではなくおそらく魚肉ソーセージ。なかなか旨い。最後には両方を混ぜて食うと味が重層的になってこれまた旨い。ローソンが期間限定で売り出すらしいが、ソースで提携しているブルドッグのホームページに記事がある。
 そしてここにも特撮イカレポンチが。

 その武家屋敷を、お土産を物色しつつ散歩。雰囲気に合わせて、自動販売機に囲いをしてあったり、道路標識の裏側を茶色に塗ってあったりと、編集者とライターの夫婦はよく気づく。
 そんな彼女がわからなかったのが、安藤醸造元に書いてあった、「いぐおざってけだなんす」。
いぐ」は、「よく」の音が変化したもの。
おざる」は、「いらっしゃる」。
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』には、「おんいである」の変化したもの、とあるが、古語辞典では「おんいである」という語は立項されていない。「御入り」はあって、これは「よそから来ることの尊敬語」。
『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』は、「お出(い)である」で、「行く」「来る」「いる」の尊敬語としている。
 まぁ正確なところはさておくとして、ポイントはどれも「おじゃる」を経由して「おざる」になった、としていること。
 最近は、アニメの影響もあるだろうが、「おじゃる」というと平安貴族みたいなイメージがあるが、「おじゃる」は貴族が使った言葉ではない、ということは前にも書いたっけか。「役割語」あたりを調べると出てくる。
けだ」は「くれた」。
なんす」は県南方言を特徴付ける語尾。県南方言がやわらかく聞えるのは、この「ん」のおかげであろう。
 つまり、全体としては、「よくいらしてくださいました」。

『秋田のことば』によれば、秋田県の方言区画は、大まかには北部・中央・南部に分かれ、その内、南部方言は由利と県南に別れる。さらに県南は、大曲・仙北、横手・平鹿、湯沢・雄勝に分けられる。田沢湖や角館は元が仙北郡であったことからわかるように大曲・仙北に含まれる。
 区域が広いだけに多様らしいのだが、城下町もあるため「ご家中ことば」という旧士族のことばも保持されているらしい。でも、解説はこれで終わり、ちょっとさびしい。
 さびしいと言えば、角館の方言、田沢湖辺りの方言について解説したページが見当たらない。特に角館なんかは観光資源としても重要だと思うんだけど、どうしてないんだろう。読者もいなくなりつつある俺の文章が Google で 上位 10 ページに入ってるようではいかんのではないか。

 彼らの疑問は、なぜ角館の武家屋敷は残ったのか、ということだった。
 それは俺もわからない。
 行った事のある人はわかると思うが、その屋敷の中には「非公開」という看板を掲げているところもある。それは人が今でも住んでいるからで、そのことが理由かと思ったのだが、ほかの地域の古い町並みでは、住んでいる人が耐えられなくなって手放す、ということもある。それが起きなかったのはなぜか、という話。
 あるいは、武家屋敷の周囲は普通の住宅街で駅にかけては商店街らしきものもある。そちらが先に近代化したので、その場所に住むことは全く不便ではなかった、ということだろうか。




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