Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第608夜

石ノ森と方言 (下)



 登米で買った『宮城県北方言の語源』をだしにした文章、ラスト。

ながらなまずっかに
「なまじっか」という言葉は辞書にも載っていて、中途半端、やらなくてもいいことをわざわざ、という意味の語だが、それはどうでもよい。
「なまじ」に「」という漢字がある、というのに驚いた。

ねっちょぶげぇー
「執念深い」で、秋田でも「ねっちょふけ」と言うが、この冊子と『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』(以下、『ことば』)が「ねちねち」という擬態語に求めているのに対して、『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』(以下、『語源』)は「ねつい」という形容詞を引っ張って「ねつ性深い」としている。

ねはじける
 目がさえて眠れないこと。「寝弾ける」と当てて、「寝る状態から弾かれる」と説明しているが、少なくとも現代語では「弾けるレモンの香り」のように自動詞だからちょっと違和感がある。
 秋田では「ねそける」と言うが、『ことば』『語源』は「そそくれる」という語で説明する。「機会を逃す」「しそびれる」という意味らしい。

はらす
 鮭の腹だが、語源未詳とあるので確認してみたら確かにその通りだった。でも、これって割と最近になって使われるようになったところじゃない?
 個人的には、脂がきつくて苦手である。
 焼き魚は火の通し加減が難しいが、最近、「蒸す」という技を覚えた。焼きすぎると焦げて食えないものになるが、蒸しすぎて食えなくなる、ということはない。まぁ、栄養分の破損の程度は知らないが。ハラスも蒸したらいいかもしれない。せっかくのハラスが、という意見もあろうが、そもそも俺が買うのは端っこをかき集めてずっしりあるのに \150 とかいうやつなので問題ない。

ひかれろ
 行っちまえ、という罵倒の言葉だそうだが、「引かれろ」という表記が正しいにしろ、どうも遠まわしな感じがして怖くない。

ひなくさい
「きなくさい」は「木な臭い」で、「木の匂い」ということだが、本当だろうか。昔はこげて匂いを発するものといえば、紙を別にすれば木が起源のものだろうから、「火薬臭い」というのは単なる現代的解釈なのか。
 こっちは「火な臭い」だそうだ。

ぼんとぐ
「ボンクラ」と同じ。
 曰く、「徳」とか「蔵」というのは人の名前によく使われる文字で、それに「凡」をつけることで、そういう人を一般的に示す。博打用語の「盆暗」を否定しているが、根拠は提示されていない。
 ネットで「凡蔵」を探すと食い物やがやたらとヒットする。

まぐらかぐら
「真暗か暗」で、うろうろしている様子、または、夕暮れ。
 解説では「か暗」に、「真っ暗と言うほどではない」という暗さという意味を与えている。「か弱い」「か細い」の「か」らしいけど、単に調子をそろえる為にくっつけただけの語じゃないのかな。

ままこめし
「継子飯」で、「生煮えの飯」と書いてあるが、加熱が不十分であるためアルファ化が起こらず芯が残ってしまったご飯のこと。継子に食わせるような出来損ないのご飯というわけだ。
 秋田で「めっこまま」というのは、「かため (片目・固め)」のしゃれだ、ということは前に書いた。

みみほろぎ
「身々ほろき」で、「酸っぱくなったにごり酒」。あまりの酸っぱさに身震いがする、というわけ。
「にごり酒」って言うときれいに聞えるけど、密造酒のことじゃないかな。

やまのかみ
 方言形なのかどうかはさておき、自分の奥さんのことだが、冊子では「山のお上」とも重ねて、「山出しの田舎臭い女性」というニュアンスがあるという。奥さんに面と向かって言ったり、人の奥さんに使えないのはそのせいらしい。一般には、「山の神」が気性の荒い女神だから、としているようだが。

 これ、実家で読んでいたのだが、書名を覗き込んだ母が、「あの人、方言も研究してたの」と驚いていた。
 俺が読んでいる「石森」の本だから、石ノ森章太郎に違いない、と推測をしたのはさすがに俺の母と言うべきか。それがペンネームで、地名から取ったのだ、と説明をしたのは言うまでもない。




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