Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第607夜

石ノ森と方言 (中)



 登米で買った『宮城県北方言の語源』をだしにした文章、ニ発目。カ行とサ行。
 三部構成なのに真ん中がカ行とサ行というのは、日本語の構成による。国語辞典の横ちょを見てもらうとわかるが、ア行からサ行で半分くらいになっているはずである。

かすける
「腫れ物がしなびる」とある。「しなびる」って言うかなぁ、こういうの。

かつける
 人に罪を擦り付けることで、秋田でもこのままの形で使うが、これに「被ける」という古語があろうとは知らなかった。字の通りで、頭にかぶせることからである。

かめばづ
 スズメバチのことで、「瓶蜂」と書く。巣の形である。
「徳利蜂」という地域もあるらしいが、体の形が似ているということでそう呼ばれるハチもいるとか。

かんかんぜみ
 ひぐらし。
 カナカナという鳴き方かららしいが、「かんかん」と「ひぐらし」とではイメージが全く違う。かなりうるさそうな気がする。

がんじょうま
「頑丈な馬」のことなのだが、なんと「頑丈」の元は「五調」という言葉であるらしい。
 名馬の基準、蹄、性質、体格、血統、産地が「五調」。これが「がんじょう」と読まれるようになり、字と離れすぎたので、「頑丈」という当て字が使われるようになったのが明治時代なんだそうである。びっくりした。
 で、それだけ揃った馬を育てるには時間がかかる、ってことから、「老馬」が「がんじょうま」。なんだか、全然、頑丈じゃないような気がするんだがどうか。

きいだぷりする
 意味は概ね見当がつくと思うが、これって「利いた風」って書くんだってな。知らなかったよ。「どっかで聞いた風なことを」というのではなく「気の利いた風を装う」って意味なんだって。

きゃっぱり
 水に落ちること。秋田で「かっぱとる」と言う、というのは前にも触れているが、この本では「川入り (かわはいり)」が「かわっぱいり」となったとする。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』(以下、『ことば』)では水に入るときの擬音としているが、『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』(『語源』)では、「かわっぱいり」が「かっぱ」となるときにその音の意識が加わったものだとしている。

こどわり
 いつだったか、「断る」が、「拒否する」と「了解を取る」の二つの意味がある、ということを書いたが (「お願いします」「断る」と「一言、断ってから行く」)、ここでは「伝言」という意味になっている。また、「理」で「ことわり」とすれば、理屈、道理、などの意味になる。
 説明には、約束を断らざるを得なくなった場合、その理由について伝言することになるから、としている。ちょっと辛くね?

このげ
 眉毛のことで、この本は語源不明としているが、『ことば』では「顔の毛」、『語源』は「甲の毛」としている。「甲」は表面の硬い部分、だそうな。

ごしゃやぐ
 言うまでもなく、怒る。
「後世焼く」と当てることが多いが、「後世」は「ごせ」で、死後の世界、来世のこと。怒りという感情を持てば来世はお先真っ暗になる、というところまでは、この冊子も『語源』も同じだが、「焼く」については、冊子で「怒りと言うのは炎のように燃えるから」、『語源』では「後世を焼き滅ぼすから」としている。『ことば』は「後世焼ける」としているので、『語源』と同じ解釈か。ただ、「五臓焼ける」という解釈も載せている。

さぎおどで
 これ自体は一昨日だが、「おととい」を「弟つ日」としている。これは血縁関係の話ではなく、「甲 (きのえ)」「乙 (きのと)」が「木の兄」「木の弟」であるのと同じで、単なる上下の順列。下のほう、と言う程度の意味。
 ただし、大辞林は「遠 (おち)」としている。万葉集にも「遠つ日も昨日も今日も」という一説があるらしい。

さすくさびする
「差楔」と書く。丸太を割るときには楔を入れるが、それで割れなかったとき、別の方向からもう一つ楔を入れる、それを言う。
 そこから、要らない口出しをする、ということを指すようになったらしいのだが、これって思いっきり専門用語の様な気がする。一般に使われるにはハードルが一つあるような気がするがどうだろう。それとも、丸太 (でなくとも、大き目の木・木材) を割る、というのは実は日常茶飯事だったのだろうか。

さんこやずる
 精進料理の汁物で、豆腐・こんにゃく・油揚げが入っている。
 闇鍋は何が入っているかわからないが、こちらは明白なので「名月汁」「十五夜汁」というのがふさわしい。そこから「三五夜汁」という推測を挙げている。はっきり「ふさわしい」と書いてあることに注目。





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