Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第598夜

魚竜人



 すっかり下火になってしまった MTB レースだが、宮城県南三陸町の田束山 (たつがねさん) でおこなわれる大会は今回が 14 回目、規模を縮小することもなく続けられている。上位クラスの優勝者には賞金が出るのだが、俺には縁のない話なので、一体いくらなのかは知らない。

 一緒に行く仲間の車にはカーナビが装備されており、最近はもう、道に迷ったり、眉間に皺、腕を組んで地図とにらめっこってこともなくなった。迷うのは、わかってるから大丈夫、とカーナビを止めているときくらいである。
 が、間違いのない効率的なルートが定着してつまらないし、時間はあるしって事で、今回は秋田道の端っこ、北上で降りてみた。どうやらそれが最短距離らしい。
 北上で降りるのを直角三角形の斜辺だとすれば、いつもの、若柳金成まで南下して東に進むルートは、それを除く二辺を行く感じ。高速道路の部分が長いから時間は短いが、金はかかる。
 で、そのルートだが、北上、江刺、水沢と市を突き抜けていくせいか、ロードサイド店が並ぶ通りが延々と続く。時間とか距離はかってみればよかったな、と思ってるところだが、本当に長かった。学生の頃、原付で埼玉に入った知り合いが、5 分で隣の市に入る、と言って驚いていたが、それを思い出した。
 それを過ぎると今度は田舎の細い三桁国道で、道の駅はもちろんコンビニも見えない、という風景が続く。よかった、ここはやっぱり東北だ、と胸をなでおろす。

 宿は「喜久粋」という。
 このサイトに料理の写真が載っている。まぁ、パンフレットだからねぇ、と思うことなかれ。本当にこれだけの量の料理が並ぶので腹を空かして行くべし。
 夕飯は大広間で、テーブルは別だがほかの客と一緒に食う。
 概ね宮城の人らしく、そういう方言現象を堪能したが、あいにく我々も明日のレースやら最近の国際情勢やらで話を咲かせていたし、レースを控えて抑え気味ながら酒を飲んでもいたので、細かいところは忘れてしまった。
 辛うじて思い出せるのは、「」の使い方。
「京へ筑紫に坂東さ」の「」で、関東や東北に特徴である目的を示す助詞の「」だが、使われ方は一様ではない。
 たとえば、「本屋に行く」の「に」は、秋田弁では「」になるが、「本を買いに行く」の「に」は「」にはならない。が、他のテーブルの人たちはこういう「」を使っていた。
 あとは、促音便も違っていたのだが、これは例が思い出せない。
 前にも書いたが、「きれいな東北弁」という印象に変わりはない。

 大会は 9:00 開始なのだが、あいにくの天気。霧がかかっている。自転車で進む分には差し支えないが、そこに行くまでの車で移動がかなり怖い。ちょっとウォーミングアップしたらウィンドブレーカーがびしょびしょになってしまった。
「山背」というにはちょっと早いのだが、車のディスプレイに表示される温度はなんと 5 度。これは大会が終わって田束山を降りるまで上がることはなかった。晩春の三陸おそるべし。つか、よく風邪ひかなかったよな、俺たち。

「山背」が、山から吹いてくる風であって、地域によって方角が異なる、ということは前にも書いた。

 帰りは、早く帰りたいし、あれこれ考えるのも面倒なので、慣れた道を行く。
 途中「ひころの里」という大看板を見かける。
 前から気になっていたのだが、今まで調べるのを忘れていた。今回、やっとググることができたのだが、郷土文化の施設らしい。オフィシャルなものかどうかはわからないが、ホームページらしきものはある。
 それによれば、「ひころ」とは「光」のことだそうだ。
 この辺りではそういうのかと思って、ほかの用例を探してみたが見つからない。
 全く別だが、滋賀県伊香郡木之本町の高時小学校の、民話を紹介したページで、「ひころの木出し」というのが見つかった。「彦六」という男のことらしい。話はそっちで読んでください。

 旧歌津町のシンボルは、アザラシのウタちゃんと魚竜らしい。
 ウタちゃんは、俺が始めてこの大会に参加した 2003 年から言ってるから随分となるのだが、あれ以後、再来はしていないはずである。
 魚竜の方は、全身骨格が見つかるなど結構、有名なトコらしい。これは「ウタツサウルス」と呼ばれる。
 魚竜館に T シャツが売られてたのだが、財布の中がさびしかったので見送った。来年にしよう。ウタちゃんのもきっとあるに違いない。




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