Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第581夜

正月は方言で酒が飲めるぞ



「秘密のケンミン SHOW」という番組を見た。正月スペシャルらしく、全都道府県出身者が集まっていた (多分)。
 これが始まったのは秋口だったかと思うが、どうも見る気にならなかった。民放のバラエティはバラエティ色が強すぎて「知的」にヤマイダレな臭いがするし、前に「ジャポニカロゴス」のことを書いたときにも触れたが、ともすると他者を貶めることがあるから嫌いなのである。
 だからと言って、NHK のバラエティもぎこちなさというか無理が感じられてアレなんだが。朝のニュースを任されていた人がクイズ番組の司会やってるの見ると目頭が熱くなる。いや、ゲストのあしらいとか見てると、実は向いてるのかな、と思わないこともないが。
 で、まぁ、今回、それを見る気になったのは偏に、浅香唯が出演していたことによる。出産後、少しずつ仕事を再開しているところだが、産後太りというようなこともないようで、喜ばしい限りである。

 さて、SHOW の中を逐一紹介してもしょうがないので、方言に関するところだけ。
 コップに飲み物を縁からあふれるくらいに注ぐことを何と言うか。
 福井の「つるつるいっぱい」が先陣を切る。
 ググってみると、必ずしも液体ではないような感じもある。昆虫採集で大漁だったとき、獲物が容器にいっぱい入っていることを表現しているページもあったのだが、そのニュアンスが一般的なものか、個人的な解釈かふざけて使ってみたのかは不明。
 また、あふれそうなくらい、という語感だと、ガソリンスタントで「レギュラー、つるつるいっぱい」というのにはちと違和感も覚える。あれは、縁まで入れたりしないし、まして、あふれさせたりはしないものだ。
 ググったら、「つるつるいっぱい」と書かれた T シャツがある模様。確か、秋田弁 T シャツってのもある、って話をどっかで聞いたが、これだったかな。確か、ネイガー関連でもあったはず。こっちは「つるつるいっぱい」どころではなく「ほじなし」とか書いてるので、秋田で着るときには覚悟が必要。
 ほかの地域では、「まけまけいっぱい」が高知。この「まけ」はどうやら、秋田弁の「まがす」と同じ系列の言葉のようだ。そういうタイトルの映画もある由。
 富山の「すりすりいっぱい」は、「すり切り一杯」と同じ発想か。
 大分は「しんけんいっぱい」とのことだが、この辺から、合成語っぽくなってくる。Google での用例もガタっと減る。固定的な表現ではないのだと思われる。前半は「真剣」なんだろうし。
 ちなみに、ここまで挙げた表現をググると、この番組の感想が多くヒットする。みんな見てるんだね。
 岐阜の「ぽんぽん」は、「一杯」という意味らしい。十分に食ったことを指す「おなか一杯」が「おなかがぽんぽん」だそうだ。これはひょっとしたら誤解を招いたりするかもしれない。
 鳥取の「がいに」は強調の副詞のように見える。ちなみに、また「エヴァンゲリオン」で食おうとしているアニメ製作会社ガイナックスの名前は、「大きい、すごい」を示す「がいな」という形容詞から来ている。
 宮城の「もっきり」は「盛り切り」で、構造としては「すり切り」と同じ。ただ、俺の語感としてはこれはもう「一杯飲み屋」のことである。正確に言うと、酒屋で、乾き物をつまみにコップ酒を飲ませるところのことを指す。その注ぎ方から店の名前になったのだと思われる。

 俺の通勤途中に一軒あったのだが、去年の暮れに店をたたんだ。やってたのは以前、看板娘であったかもしれない女性で、時折見かける客は、以前は美少年だったかもしれない男性達だった。
 同じ許可事業だからか切手を売ってる酒屋はよく見るが、ご幼少のみぎり、近所にその「もっきり」をやってる店があって、俺の母親はそこへ俺をお使いに出すのは割とイヤだったそうである。

もっきり」については、同じ「盛り切り」ながら、茨城にいくと「一度、盛っただけで、追加のないこと」という意味になるらしい。また、福島では、「ちょっと飲んでいけ」というような勧誘を「もっきり一杯」と言うらしい。どっちも例は多くないが、派生が面白いので紹介しておく。
 熊本の「ほいっぴゃー」になると、「たくさん」ということで、「つるつるいっぱい」からは遠くなる。

 おや、「つるつるいっぱい」だけで結構な量になった。今週はこれにて。




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第582夜「セブン−イレブンのない県」へ

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