いのうえさきこの絵を始めてみたのは、“DOS/V Magazine”というパソコン雑誌である。
いつだったかは覚えてないが、単行本が 2000 年に出てたらしいから、まだ 20 世紀の頃の話であることは確かだ。
ほかにもそういう人は多いようだが、その漫画が一番の楽しみだった。
しかも、その雑誌は会社で購読してた奴で、何せソフト屋だもんだから、その雑誌を読むことも、胸張って「仕事だ」と言える、というのがたまらない。
それが、
大修館書店の『問題な日本語』でドカーンと出てきた。『言語』読んでたらその広告が目に入って「なんでこの人?」と思ったのは覚えている。初対面が DOS/V Magazine だから、急に日本語方面に来たので大分びっくりした。
さて、この『かなりあやしい?! おかんとつっこむ微妙な日本語 (
芳文社)』は、「ほんとうにあった (生) ここだけの話」っていう雑誌に連載されていたのをまとめたものである。読者からの、「ほんとうにあったこと」の投書を基にした漫画雑誌らしい。いい間違い、書き間違い、ボケ、つっこみが詰まっている。
ここでは勿論、3 セクションにまたがっている方言に関するエピソードにつっこみを入れてみる。
最初っからかまされてしまう。
徳島では、包丁のことを「
なぎたん」と言う!
びっくりした。聞いたこともない表現。
あわててググる。
ヒットしない!
キーワードを「徳島弁」ではなく「阿波弁」にしたらやっと 2 件。
でも、そういう紹介だけで、どう書くのか、どういう語源なのかは不明。
物を食っていたら、いきなり「
スケベ」と言われてしまった、という話。
投稿者は青森の人で、これは「酸っぱいでしょ」という意味。
秋田もそうだが、「酸っぱい」を「
酸っけ」と言う。これに、「べし」の変化した「
べ」がくっついた形。で、シラビーム方言なので、「
っ」は極端に短くなり、「
すけべ」に聞こえる、というわけ。
これは漫画の途中に挟まっている作者自身の文章だが、「
こうとな」という近畿の表現。「地味」もしくは「上品」という意味だが、やっぱりどこにも説明なし。
たまに「公道」って書いてあるので調べてみたら、古語で「こうとう」と読み、「地味、手堅い」てな意味があるそうな。
反対語は「
はんなり」。
秋田弁に戻って、「
どかづがでがらな」という表記。意味は、おっちょこちょいというかガサツと言うか。
俺の場合、「
どかちかで」なのだよな。これは多分、校正を間違ってなければ、投書のままだと思うんだが。
ただ、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、
無明舎出版)』に当たったら、「
どかしか」「
どかふか」「
どがふか」という表記もあった。
茨城・栃木の一部では、「家」のことを「
げ」という由。一文字の方言って調べようがないんだよねぇ。「
おめげ (あんたの家)」で調べると引っかかりはするが、「家」が「け」なのか…。
「
ちんじゅう」は、「縮れ毛」「天然パーマ」。
東海と九州北部の一部。これまたどこのページに行っても説明なし。
さて、
前に取り上げた、クイズ番組での「
へなが」。
正解が「
へそ」、二発目の誤答が「
へじゃかぶ」なのは同じだが、この投書ではローカル番組になっている。まさに都市伝説。
方言を扱った話は全体の 1/5 程度、別に方言に興味がなくても楽しめると思う。
雑誌の性質か、ちとシモに走ったネタが多いので、教育目的には向かない。
最初の漫画は、「間違った日本語」とは言いながら、9 割の人が間違っているとしたら、正しい使い方をしても、9 割の人に「やだ、あの人の日本語おかしいわよ」って思われてしまうわけで、意味ねー、というもの。さすがに『問題な日本語』の人。「正しい日本語」教への透徹した眼差しに尊敬の念を抱いてしまう。
後書きは、作者ではなく、登場人物の「おかん」の文章らしいのだが、「いのうえさきこに
変わっておかん」というのは、きっとわざとだろうな、うん。