Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第573夜

かなりあやしい!?



 いのうえさきこの絵を始めてみたのは、“DOS/V Magazine”というパソコン雑誌である。
 いつだったかは覚えてないが、単行本が 2000 年に出てたらしいから、まだ 20 世紀の頃の話であることは確かだ。
 ほかにもそういう人は多いようだが、その漫画が一番の楽しみだった。
 しかも、その雑誌は会社で購読してた奴で、何せソフト屋だもんだから、その雑誌を読むことも、胸張って「仕事だ」と言える、というのがたまらない。
 それが、大修館書店の『問題な日本語』でドカーンと出てきた。『言語』読んでたらその広告が目に入って「なんでこの人?」と思ったのは覚えている。初対面が DOS/V Magazine だから、急に日本語方面に来たので大分びっくりした。

 さて、この『かなりあやしい?! おかんとつっこむ微妙な日本語 (芳文社)』は、「ほんとうにあった (生) ここだけの話」っていう雑誌に連載されていたのをまとめたものである。読者からの、「ほんとうにあったこと」の投書を基にした漫画雑誌らしい。いい間違い、書き間違い、ボケ、つっこみが詰まっている。
 ここでは勿論、3 セクションにまたがっている方言に関するエピソードにつっこみを入れてみる。

 最初っからかまされてしまう。
 徳島では、包丁のことを「なぎたん」と言う!
 びっくりした。聞いたこともない表現。
 あわててググる。
 ヒットしない!
 キーワードを「徳島弁」ではなく「阿波弁」にしたらやっと 2 件。
 でも、そういう紹介だけで、どう書くのか、どういう語源なのかは不明。

 物を食っていたら、いきなり「スケベ」と言われてしまった、という話。
 投稿者は青森の人で、これは「酸っぱいでしょ」という意味。
 秋田もそうだが、「酸っぱい」を「酸っけ」と言う。これに、「べし」の変化した「」がくっついた形。で、シラビーム方言なので、「」は極端に短くなり、「すけべ」に聞こえる、というわけ。

 これは漫画の途中に挟まっている作者自身の文章だが、「こうとな」という近畿の表現。「地味」もしくは「上品」という意味だが、やっぱりどこにも説明なし。
 たまに「公道」って書いてあるので調べてみたら、古語で「こうとう」と読み、「地味、手堅い」てな意味があるそうな。
 反対語は「はんなり」。

 秋田弁に戻って、「どかづがでがらな」という表記。意味は、おっちょこちょいというかガサツと言うか。
 俺の場合、「どかちかで」なのだよな。これは多分、校正を間違ってなければ、投書のままだと思うんだが。
 ただ、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』に当たったら、「どかしか」「どかふか」「どがふか」という表記もあった。

 茨城・栃木の一部では、「家」のことを「」という由。一文字の方言って調べようがないんだよねぇ。「おめげ (あんたの家)」で調べると引っかかりはするが、「家」が「け」なのか…。

ちんじゅう」は、「縮れ毛」「天然パーマ」。
 東海と九州北部の一部。これまたどこのページに行っても説明なし。

 さて、に取り上げた、クイズ番組での「へなが」。
 正解が「へそ」、二発目の誤答が「へじゃかぶ」なのは同じだが、この投書ではローカル番組になっている。まさに都市伝説。

 方言を扱った話は全体の 1/5 程度、別に方言に興味がなくても楽しめると思う。
 雑誌の性質か、ちとシモに走ったネタが多いので、教育目的には向かない。

 最初の漫画は、「間違った日本語」とは言いながら、9 割の人が間違っているとしたら、正しい使い方をしても、9 割の人に「やだ、あの人の日本語おかしいわよ」って思われてしまうわけで、意味ねー、というもの。さすがに『問題な日本語』の人。「正しい日本語」教への透徹した眼差しに尊敬の念を抱いてしまう。
 後書きは、作者ではなく、登場人物の「おかん」の文章らしいのだが、「いのうえさきこに変わっておかん」というのは、きっとわざとだろうな、うん。




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