Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第570夜

わか杉な方言



わか杉国体」と「わか杉大会」が終了した。馬術の一部がインフルエンザのせいで中止になってしまったが、今のところ、「よかった」「よかった」のオンパレードである。
 観客として行った人の感想を見聞きするところでは、全国の方言が耳に飛び込んできてすごかった、という人が多い。それはそうであろう、と思う。きっと春や夏の甲子園近辺とかもそうなんだろうな。
 俺は、試合は見に行かなかったが、ピアノのレッスンの前に飯を食いに行く店で、津軽弁と思しき言葉で会話している一団と、手話で話をしている一団とを見かけている。

 迎えるほうだが、秋田県観光連盟は去年の秋、「接遇マニュアル」というのを作成している。俺は観光業者じゃないので具体的にどんな内容だったのかは知らないが、話題になったのは、「方言は最高のもてなしなのです」というように秋田弁を前面に押し出したから。
「秋田には何にもない」とは絶対に言うな、とも書いてあったらしいのだが、これはよく耳にする。俺も言ったことあるかもしれない。
 まずは照れ。それはある程度、許して欲しい。「俺ってすごいだろ」というのは普通、言いにくいものであるし、故郷自慢もその延長、しかもそれは自分が構築したものではない。
 もう一つは、改めて「秋田ってどういうところですか」と聞かれて、こちらも改めて考え直したとき、パパっと思い浮かんだものが本当にすごいのかどうか、って点で躊躇してしまう、ということはある。郷土料理筆頭の「きりたんぽ」だって他に似たものがないかどうかなんて知らないし、俺は旨いと思うけど他の人が旨いと思うかどうかまで責任もてないし (嫌いだ、と明言した知り合いがいたが)、とあれこれ考えてしまった結果、「いやぁ別に」と言ってしまう。
 が、それは、質問した人に対して不親切であり不誠実であり、というのは確か。ずけ (とりあえず食え) というのが模範解答なのであろう。
 それにしても「接遇マニュアル」って名前はすごいな。

「わか杉国体」のキャッチフレーズは、「君のハートよ位置につけ」である。まぁ、悪くない。
 スポーツ関係でいつも気になっているのは、「目指せ」である。「目指せ、甲子園」とかいうやつ。
 およそスポーツをやっている高校生で、甲子園とか花園とか国立とかが頭の中にチラとも浮かばない者はいないと思うのだが。そういう彼らに対して「目指せ」って発破をかけるのは筋違いもはなはだしい。つか、それって、目指そうとも思わない人に対する言葉だってことにそろそろ気づいていただきたい。
「わか杉大会」の方は、「きっと出会える! 夢と感動」。残念ながらありきたりだ。オフィシャルのタイトルが「わか杉国体」になってるのは単なる間違いか。絶対に間違っちゃいかんところだと思うが。

 ボランティアの皆さんも秋田弁を大いに売り込んだようである。
 秋田市のページに手作り応援グッズに秋田弁講座を書き込んだ麗が紹介されている。
 秋田市に「国体局」って部署があったのね。
 運営ボランティアの連絡用自転車が新聞に載っていた。前カゴに書いてある文章を、勝手ながら全文引用。
朝夕は、さんびぐなってきたがら
ばんげ寝るどきは、じっぱり着て寝ねねど!
選手の人らぢも、係りの人らじも
みんなして力合わせで頑張って
「秋田国体おもへがったなo/~」って
(「o/~」は八分音符)
いい思い出なるんた国体にしろな!!
 場所は美郷町だから県南方言ってことになるのか。
さんびぐ」は「寒く」、「ばんげ」は「夜」、「じっぱり」は「たくさん」。
寝ねねど」は、「寝なければならないよ」。
「達」が「らぢ」になるのね。
しろな」は、「しようね」。命令形ではない。一緒にやっていこうね、ということ。

 ほかに、ネイガーんだがらしゃの面々も活躍したようだ。
 アトリオンで「ふるさと文化ライブハウス」ってイベントがあって、秋田弁講座も開催されたらしい。これは行きたかった。失敗しっぱい。
 秋田駅のぽぽろーどで関連イベントをやって、パンフもいろいろ置かれていたのだが、大会そのもののガイドはともかく、どれもこれも観光やら土産やら県勢やらの、言葉は悪いが「生臭い」ものばっかり。秋田弁押しのものは一つもなかった。

 この二大会の間、秋田に人がやけに増えて町が動きにくくなったのには閉口した。
 これは竿灯の時期でも同じである。みんな観光気分で歩いているし、多くは団体で、歩道一杯に広がって歩いたり、集団でふざけたり、なんの前触れもなく方向転換したりするので、自転車や車で移動していておっかないことこの上ない。
 観光客というのが実は迷惑な存在である、ということに気づいたのは、まさしく自分が観光客としてスキーに行ったときのことである。ほかにも、湘南近辺に住んでいる人は、夏場の週末は身動きが取れない、というような話も聞いたし。まぁ、自分にとって「アウェー」である、という意識は何によらず重要であろう。

 冬季大会は 2 月。
 雪はどうなるだろうねぇ…。



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第571夜「方言主流都会」へ

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