Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第554夜

超神ネイガー 歌っこ全集



 久々の超神ネイガー話。
「歌っこ全集」という新しい CD が出ている。
 ネイガーは続々と仲間が増えていて、荒海丸 (アラゲマル) に加え、弟分のジオン、ヒロインにマイが登場、この CD には彼らのテーマソングが収められている。
 その歌詞の中の秋田弁でちょっとお話を。

 トップは「ネイガー音頭」。
 当然の登場かと思うが、「パラパラ バージョン」の方にはちと疑問がある。なんでパラパラ。
 歌うは、あべ十全。
 まず「ネイガー音頭でごしゃでけろ」。
ごしゃで」は「ごしゃいで」で、ネイガー者であれば当然、「豪石」という形できちんと理解しているはずの単語。
 問題は「けろ」。「ける」が活用したもので、とは言っても「蹴る」ではなくて、「くれる」の方。秋田弁を中途半端に理解していると、もしくは、「テレビ方言」の線で解釈すると「怒ってください」になってしまうが、それは間違い。これは「怒ってやる」「怒るぞ」という意味である。
「くれる」を使った例を挙げると、「目にもの見せてくれる」という場合に相当する。
 そう言えば「ケデ」について以前、「藁のことのはずだが調べがつかない」と書いたが、これはどうやら単なる藁のことではなく、ナマハゲが身にまとっているアレのことを指すらしい。
 歌では、ヒーローの活躍をたたえた後、俺も頑張ろう、と続く。
   おらもホジねくて、ゆるぐはねども
 つまり、俺自身もホジナシなので、楽ではないのだが、と言う。これが、「よいではねども」「やずがねども」「うだでんだども」と繰り返される。
やずがね」は「ダメ」、「うだで」は「不快である」ということだが、「ゆるぐね」と「よいでね」のニュアンス、俺には説明不可能。
 大体、「ゆるぐね」は俺にとっては使用語彙ではないんだけどな。

 二曲目、ジオンのテーマで「守森神」。これで「まもりがみ」と読む。
 曲は A パートが秋田弁メインで囁くように歌い、B パートで標準語が炸裂するという構成。
 方言を外国語のように聞かせる、というのはよくある手法だが、字面でも「ワばり イバイ」と書かれると、「なに?」という感じにはなる。「自分だけがよければよい」という意味である。
うだる」という語が出てくる。聞いたことがなかったのだが、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』によれば「打ち遣る」の変化したものだという。「捨てる」という意味。
そんちぎた」に「そんな奴」という訳を当てているが、俺は「そんちぎた」を単語に分解できない。「そんちぎた」なのか?

「ネイガー・マイのテーマ」はなんと女王様・堀江美都子。主題化が水木一郎だったからな、そうでなくては釣り合いが取れない。
 歌詞は標準語オンリーだが、サブタイトルの「翡翠の翼」がわからない。
 ネイガーがナマハゲ、ジオンがクマゲラときて、マイは田沢湖の辰子姫がモチーフなのだが、まず辰子姫の伝説を理解する必要がある。
 思いっきりはしょると、永遠の美を神に望んだ結果、龍になってしまい、田沢湖で暮らすようになったというもので、つまりこの「翡翠の翼」は龍の翼のことだと思われる。
 で、ちょっと寄り道。「翡翠」とは何か。宝石のことだと思ってる人は多いに違いないが、これは「カワセミ」のことである。「翡」がオス、「翠」がメスだが、「翡」が赤、「翠」が青という説もある。
 カワセミといえば深みのある緑、ということを知ってる人も多いだろう。そういう色の宝石を「翡翠」と呼ぶようになったわけ。
 もっと言えば、ヒスイには「硬玉」と「軟玉」とがあって、宝石扱いされるのは前者のみ、とか色々あるらしい。それぞれ英語では「ジェダイト」と「ネフライト」、「セーラームーン」を知る人にはなじみのある単語のはず。

 荒海丸のテーマ「俺は漁港の暴れ馬」は、土着度の高いキャラだが、意外に秋田弁濃度が低い。
 歌詞カードの誤植(「運があろうがなかろうが」が「運があろかろうが」)が痛い。

 ラストは「だじゃぐ組合歌」。
ケッチキダ」という単語が出てくるのだが、初めて聞いた。「つまらないもの」という意味らしいのだが。
「だったがな?」と並べてはやし立てる、景気のいい歌である。

 それに使ったのか、あるいは「ネイガー音頭」に使ったのか、「チャッパ」という楽器がクレジットされている。聞いたことがないのでググってみたら、すぐにでてきた。アルマイトの灰皿みたいな奴のことらしい。
「チャンチキ」は知ってる、と思ったのだが、よく考えると「チャンチキおけさ」として知ってる程度で、どういう楽器かは知らなかった。これは、深皿みたいなのを、木槌の小さいので叩くアレだ。

 春先に漫画が雑誌に載るはずだったのだが、どうも立ち消えになったようだ。前作がちょっと色々と疑問のある作品だったからな。
 CM には色々でてるけど、ひょっとして下火? と思ったら、オフィシャルではまだまだショーの予定が詰まっていた。
 それだけではない。いつのまにか「クレーガ」という設定ができている。これは一体、何だ。
 どこまで行くのか、ネイガー。




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