Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第539夜

京都のさわり



 今回は小学館サライにおんぶに抱っこの文章。
 主に人生のベテランを対象にした雑誌で、「らくらくホン」の解説をしたりするくらいなのだが、俺はかれこれ 15 年くらいずっと読んでいる。シャーロック・ホームズの特集をしているのを見かけて手に取ったのがきっかけ。
 毎回必ず、各界で活躍中の人のインタビューが載るのだが、これがめっぽう面白い。やはり一芸に秀でた人、道を究めた人の話は読み応えがある。2 号くらい前のは、写真家の大竹省ニ氏のインタビューで、「『写す』と『撮る』は違う」など興味深い発言があった。去年辺りだったか、死んだことがないから死後のことはわからない、と言った坊さんも記憶にある。

 今回は京都の特集ということで、そのインタビューはかの堀井令以知氏。大河ドラマで必ず京ことばや御所ことばの指導で名前が出てくる。
 見出しにも掲げられているが、「人もことばも常に揺れ動き変化する。それはともに生きている証なのです」。さすがに一流の人はちゃんとわかっている。
 京都弁 (氏によれば、「京都語」だそうだが) がなぜ優雅に聞こえるかについては前から考えていて、「木」が「きぃ」などと二音節になって伸びるのは確かだが、それは大阪弁も同じである。大阪弁は早口なのが問題なのだろうか。権力者の街だからはっきり言うことがはばかられた、そのことと、テンポが遅いことは関係があるのか。そもそも京都弁は本当にテンポが遅いのか。数字で出すのは難しいかもしれないが、どっかにデータがあるかな。
 インタビュアーのほうが、よくある固定観念丸出しの質問をしている。「日本語は英語に押されるばかりです」という問いかけは、堀井氏に「まぁ、今はそうやね」とあっさり片付けられる。
「早くしろ」という意味の表現を、敬意別に並べられて、「なんという多彩さ」と驚いているが、それぞれ「早くしろ」「早くしないか」「早くしてください」「早くなさいませんか」「早くなさったらよろしいのに」が対応する (京都語のニュアンスはつかみきれてないから外れてるかもしれないが)。敬語が発達してることは否定しないが、素朴すぎる。
「ヤバい」が「ものすごくよい」という意味に使われていることに続けて、“nice”が元は「無知な」という意味であったことが紹介される。これにはびっくり。辞書を当たったら、「頑固な」から「潔癖症」あたりを経て「よい」という意味を獲得したらしい。
 なお、本来の京都、つまり京都語の本拠地は、今の上京区と下京区の範囲だそうである。

 さて、中を見ていくことにする。
 今の時期といえば桜。桜の枝は「さくい」。
「折れやすい」ということらしいが、「さくい」だけで検索すると「索引」がやたらとヒットするので難渋。「折れやすい」との AND でやっと調べられる量になった。
「裂くい」と書くらしいが、この「い」は何? 形容詞語尾にしては、「裂く」が思いっきり動詞なのだが。
 近畿・中国・四国での例が見つかる。人についても使うようだが、頼りない、もろい、淡白である、ということになるらしい。

 京都といえば、なんでも「さん」づけするところ。「天皇さん」なんて言い方もあるくらいだが、これは「さん」がれっきとした敬語だから。標準語で単なる丁寧語相当になってしまったのとは別である。
おくどさん」は、かまど。「燻道」と書く、というページを見つけたが、それをふくめ 2 例のみ。保留。

 京都といえば「おばんざい」。前から、不思議な語感の単語だなぁ、と思っていたのだが、「お番菜」と書くらしい。あちこちに、「番」というのは「日常の、粗末なものを指す」という説明が見られ、「番茶」なんてのがその例らしいが、俺の手元にある漢和辞典二冊では、その意味は一方にしか書かれていない。
「番傘」を引き合いに出しているページも多いが、大辞泉では、「商家などで番号をつけて客に貸したところからいう」としている。

 京都といえば、舞妓 haaan!!! に芸妓さん。
 彼女達がいる場所を「花街」というが、これに「かがい」というルビを振っている。なんだかしつこいなぁ、と思って確認したら、これが正しい読み方なんだそうだ。へー知らんかった。京都に行って通ぶりたい人は「かがい」と言おう。

 この雑誌、時々ものすごく不親切なことがある。つか、人生のベテランが対象だから、「知ってるでしょ?」って感じなのかもしれない。
「八寸」って知ってますか?
 小皿料理をたくさん載せた、それくらいの大きさの器のことですってよ。今号に二度、出てくるが全く説明なし。
「小食」は? 食う量が少ないことではなく、「間食」のこと。
 京都の特集だから神社仏閣も取り上げられているが、「境外摂社」も説明なし。これは自分で調べてください。実は、Wikipedia の説明を読んでもわからなかった。とりあえず、「境外」の反対が「境内 (けいだい)」だってことはわかったんだが。

 その 15 年分、全部、とってあるのだが、さすがに押入れを圧迫する。読み返すことはほとんどないが、今更、捨てるのも忍びないので困っている。




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