今日のお題は柿。
あんまり得意な果物ではないが、食わないこともない。
固いと皮が剥きにくいのと、リンゴと違って当たり外れの差が大きいような気がする。ゴリ、とかいったりすることもあるもんな。当たると、あの甘みで幸福な気分になれるけど。
「柿」そのものの俚諺形は見当たらない。
熟した柿のことを「
ずくし」「
じくし」などと言うくらいである。これは単に「熟柿」の音が変化したものだろう。
「あんぽ柿」というのがある。平たく言えば干し柿のことだが、「あんぽ」という音は「天干し (あまぼし)」からきている。これ自体は俚諺でもなんでもない。
干し柿は渋柿から作るわけだが、干すことによって渋み成分であるタンニンが凝固、水に溶けにくくなる。そのため舌に乗せても苦味を感じなくなるわけである。科学的には「渋が抜けた」わけではない。
その結果、タンニンが水溶性のままである普通の柿よりもはるかに甘くなる。
で、この甘さを人間の甘さにかけて、お間抜け様を「
あんぽんたん」と呼ぶようになった。
熟す前に収穫して、後から成熟させることを「
とろませ」と言うらしい。やわらかくなることを言ったのだと思うが、一般形なのか俚諺なのか、用例が少ないためなんとも言えず。
「
よたん」という柿もあるらしいのがだ、これも同様。
新潟には、「
柿こうせん」という食い物があるらしい。米の粉を、柿のとろみでまとめたものらしいのだが、「
こうせん」がどういう字なのだか不明。
「さわす」という単語がある。今回のことで調べるまで聞いたこともなかったのだが、「湯や焼酎につけて、柿の実の渋を抜く (
大辞林)」という意味らしい。「味醂」の後ろの字で、「醂す」と書く。
*1
例によって、方言だとしている人が各地にいるが、これはまぁやむをえないと思う。日常的に使う人がそんなにいるとも思えないもの。
「さらす」との関連を指摘するページもいくつかあるが、どっちが先だかは意見が分かれる模様。
岩手には「
かぎほろぎ」という単語がある由。
秋田でも、雪をほろったりするが、柿を木から落とすことである。
落とさずに木の上で完熟させたものを「木ざわし」と言う。
平凡社大百科事典によれば、柿には霊魂にまつわる言い伝えが多いらしい。理由は説明されていないが、別の段落には、枝が折れやすいため死にまつわる伝承も多いとか。でも、ゴルフ クラブの材料だよなぁ。固いから折れるんだろうけど、割れないの?
柿の実と人の魂が同じ語形 (
テンビ、
テンピ) で示される地域もある、と書いてあるが、少なくとも
Google では見つからず。「
てんぴ」で検索すると干し柿の作り方がヒットしてしまうからその中にまぎれてしまっている可能性は高いが。
「成木責め」という風習は、「成るか成らないか。成らねば切るぞ」と言って木を切りつけるまねをして脅す風習。神が宿るとかいいながら脅すとは。
最後に方言から離れる。
柿と言えば、「柿落とし」。よく、「こけらおとし」の誤字、とかで話題になる。
一応、通説としては、「こけら」の右側の縦線は上から下まで貫き、カキの場合は上が点、ということになっている。
が、
Wikipedia によれば、康熙字典ではカキとコケラの字が逆になっているそうで、JIS でも別の字とは認めにくい、ということで同じ字とみなしているそうな。
*2
ためしにググってみると、「柿落とし」とカキの字を使っているのが 4 万ちょっと、「(コケラ)落とし」が 3 万弱。正しい正しくない以前に、コケラの字は見る環境によっては表示されない場合がある、ということは念頭に置くべきだと思うんだがどうか。
*3
今回のタイトルは二通りに解釈できる。
植物ホラーと読んでもいいし、非常においしい柿で客に出すと喜ばれる、という読み方も可能。