宮崎あおいが朝ドラ登場ということで、割と期待して見始めた。
放送開始当時は例の長期出張中で、割と精神的に潤いのない生活をしてたもんだから、ゴーストつきとはいえテレビそのものが楽しみだった、ということもある。
最初は幼少期から始まって、主人公は美山加恋。あぁあなたがそうですか、ということで見てた。確かに達者な芝居である。
ほんでしばらくして宮崎あおいが登場。元気に突っ走る役でよかったが、戦争の頃からなんだか「普通の朝ドラ」になってしまって脱落した。最後の一週だけは、と思って復帰したものの、やっぱり「普通の朝ドラ」だった。
舞台は愛知の岡崎。
『都道府県別 全国方言小辞典(
三省堂)』によれば、愛知の方言は、西の尾張と、東の三河に分かれる。名古屋は尾張、岡崎は三河で、もうちょっと細かく言うと西三河、ということになる。
「〜だろう」が尾張で「
だろー」、三河で「
ずら」。「ください」が「
ちょーでゃー」と「
おくれん」、「行こう」が「
いこまい」と「
いかまい」という具合に違う。『
最新 一目でわかる全国方言一覧辞典(
学研)』には、「お逝き――もとい「お行きなさい」が「
おいきやす」と「
おいきん/
おいきましょう」という例もある。
「
ずら」は静岡という印象があると思うが、隣同士だから似てるのも当然。
「
おくれん」はドラマの中でしょっちゅうでてきてたと思う。「
ましょう」という形の依頼表現もよく耳にした。
味噌屋の職人頭、塩見三省が「
ましょう」をよく使っていた。使用人だから敬語を使うことは多いわけだが、「見てください」を「
お見らしておくれましょう」など、「
〜しておくれましょう」というのが印象に残っている。この人の岡崎弁が一番きれいだったと思う。
リアルに感じられたのは、井川遥の義母。役者さんの名前は失念したが。どこを調べればわかるのやら。
この「リアル」はもちろん、部外者の印象である。
西島秀俊が津軽弁を使っていたが、俺にとって近場なだけに、これに無理があったことはわかる。がんばってるな、という感じはしたけど。
「
もらえるげなよ」というのは「もらえるみたいだよ」という意味。耳にした瞬間は「え?」と思うが、「
もらえる−
げ−
なよ」という形に分解すれば割とわかりやすい。その分割方法が文法的に正しいかどうかはわからないが、「げ」は「さびしげ」「けだるげ」のように、「そんな感じ」を表現するときに使われることを思い出せばちゃんと理解できる。
これが、日本語という一つの言語である証拠なのかと思うが、似たような現象はほかにもある。
山陰では「行きませんか?」と人を誘うときに「
行かず」と言う。これは否定に聞こえるが、「行かない?」にも「行きませんか」にも「ない」「ません」という否定形がある。実はおんなじ構造なのだ。
名古屋放送局のページに三河弁の方言指導をした人の紹介はあったが、それくらいで、オフィシャル
*1な記事はほとんどない。
単純にググると感想のページが山ほど見つかるが、好き嫌い、なっている・なっていないが入り混じっている。オリジナルの方言にどの程度、近いのかによって感じ方が変わってくるのだろうか。もちろん、テレビにおける方言は以前から賛否両論、それに対するスタンスにもよるのだろう。
「
じゃん」の頻発に眉をひそめている人も少なからずいる。
「東京の若者言葉」という風に思われているが、「
じゃん」「
だら」「
りん」という語尾は三河弁の特徴で、続けて「
じゃんだらりん」と呼ばれる。したがって間違いではない。
気になったのは、時々、現代的な表現が出てくることである。
劇団ひとりが哲学者のデカルトを
デ
カルト
と発音していたが、この典型的な専門化アクセント、当時からあったものなのだろうか。
あと、確か、マロニエ荘の住人だったかと思ったが、「教えてください」を「教えてもらっていいですか」と言っていた。桜子も「(ピアノを)弾かさしてください」と言っていたし、脚本にあったのかキャストのアレンジなのかはわからないが、その辺のチェックは甘かったようだ。
このドラマは、津島佑子の『
火の山−山猿記』という小説がベースになっている。
オープニングのテロップでは「原案」となっているが、最初は「原作」だったような気がする。テープが残ってないから確認のしようもないが、小説から離れすぎたのだろうか。
「
純情きらり☆きらり旅」というブログで、この小説を読む過程が紹介されているが、小説では山梨らしい。いや、俺も、なんで岡崎で「火の山」なんだろうなぁ、とは思ってたんだが、そういうことか。
宮崎あおい以外に目を見張ったのは、井川遥がはじめて出産をサポートするシーン。突然のことだったのにてきぱきと指示を出し、弟に、男はあっちへ行ってろ、と言うなど、いっとき癒し系と言われてたとは思えない迫力だった。
まぁそんなわけで、序盤は、視聴率で苦戦、というような話も聞いたが、最終的には相当にいい数字が出たようで何より。
果たして宮崎あおい は朝ドラに合うのか、と思っていたら、今度は大河である。「清純派」「透明感」などという表現で語られるから NHK がお気に入りとしたくなる気持ちはわかるが、彼女はどこか尖ったところのある女優だと思っているので、そういうところをなくしてほしくない、と思う次第。