僻地医療に関する記事が新聞に載った。6 月末のことである。
そういう場所で医療に従事する人に対する心構えをまとめた文書を厚生労働省が発表した、その中には、方言でのコミュニケーションには困難が伴うので云々、というわけである。
さっそく
厚生労働省のホームページに見に行った。
が、見当たらない。
しょうがないのでここまでほったらかしにしてきたわけだ。
前から思っていたのだが、役所のホームページの検索機能はとてつもなく使いにくい。多分、検索単語との一致度とか出現頻度とか参照頻度とか更新時期での重み付けをしてないんだと思う。ノイズ情報が多すぎて、とても役に立たない。
俺はそれに我慢がならない場合、
Google に行って、サイト指定で検索する。これだと、Google が見つけたデータしか検索対象にならないが、少なくともノイズというゴミの山に埋もれずに済む。
さて、僻地医療の方言である。
新聞の記事からしばらく経って、そろそろ一般の文章にも取り上げられ、それが Google に載るだろう、ということで改めて探してみる。
あった。
「
へき地医療情報ネットワーク」に。
運営しているのは「へき地医療情報センター」というところで、社団法人 地域医療振興協会の中にある組織、てな感じのもよう。
いずれ、厚生労働省のサイトに、へき地医療情報ネットワークの文書があるわけがない。
だが、新聞には「厚生労働省が」と書かれている。
つまり、厚生労働省の広報から新聞記事掲載に至る経路のどこかに、必要な情報を落とした奴がいるわけだ。
新聞はリンクにもうるさいので張らないが、「へき地医療 and 方言」で検索すると記事が見つかるのでどうぞ。
hekichi.net も hekichi.net で、確かに、新着情報にはその文書をアップしたことが書かれているが、そのページから文書には飛べない。トップページに戻って、文書ライブラリから云々と探さなければならない。
そこでも決して見つけやすくはないのだが、とどめはその文書である。
ダウンロードした PDF で「方言」という単語を検索してみたが、ヒットしない。「方」と「言」に分けたりして色々とトライしてみたがだめ。全ページをクリップボードにコピーしようとしてみてわかった。
その PDF には、
文字がない。印刷されたものをスキャンしてできた画像を PDF にしてあるのだ。
内容を検索できないデジタル データに意味はねぇ。
このことに、リテラシーが高い者は関わっていない、ということがよーくわかった。
しょうがないので、頭から読んでいく。
確かに、そういう記述はあった。「その他」の文書に「方言がわからないあるいは意味に疑問を感じたら確認する」とある。
方言に関する言及は
これだけである。
メディアは、どういうつもりで、これをことさらに取り上げたのだろう。
これだけだとコミュニケーション能力の低い人の悪口を言っておしまいになってしまうので、方言に関する話題を無理やり探す。
在宅医療に関するページがある。
患者を家におきヘルパーを頼むと、外の人が入ってくることになる。
これを「
ふうがわるい」と言われた、という文章があった。
「
ふうがわるい」というのは、「みっともない」「外聞が悪い」という意味で、中部ないし山陰で使われる表現である。「風が悪い」と書くのだろう。「風体」「風采」の「風」である。解説がなかったところをみると、その文章を書いた人は、これが方言であるということに気づいてないのではないだろうか。
面白いのは、では「
ふうがよい」はどういう意味かというと、これもやっぱり「みっともない」という意味になる、ということだ。
皮肉から来た用法なのかもしれないが、説得力のある説明は見当たらない。「嘘をつくな」も「嘘をつけ」も、嘘をつくことを非難する表現であることと絡めた文章はあった。
*1
行為と、それを評価する語という組み合わせが定着した結果、評価する語が脱落する、という現象は現在でも観察される。「挙動不審である」から「不審」が落ちて動詞化した「キョドる」という表現は若者語にあるし、「結果」「天気」なども同様だ。それと関係ないかしらん。
*2
厚生労働省は医療従事者に対するアンケートも実施していて、これも「僻地 and 方言」でググったら見つかったので期待したのだが、「方言がわからないので、買い物など日常生活に支障が出ることがある」という医者側の意見だった。
結局、ユーザー・患者・国民の側を見てない、ってことなのかもしれないなぁ、と思わせる出来事だった。
*1
「嘘~」については、アルクが「『嘘をつけ』は、相手が嘘をついた後に使うことによって、非難の意味を持つ (嘘をつく行為は完了しているので文字通りの命令として機能しない) 」と説明している。また、「『嘘をつけるものならついてみろ』が短くなったもの」という説明をしているところもあった。
個人的にはどちらも今イチな感じ。
「嘘」自体がネガティブな意味を持っている、ということも考慮する必要があるんじゃないだろうか。
遊泳禁止区域に行って「泳げ」と言っても非難とか静止の意味は出てこないし。
「馬鹿を言え」というのもそうだし、容認度は低いが、「ふざけろ」というのもある。
(↑)
*2
「結果を出せない」「結果を伴わない」は、「まだ完了してない」とか「尻すぼみで自然消滅した」ということではなく、「良い結果にならなかった」という意味である。
「あーした天気になーれ」だって、「今日は天気というものが存在しなかった」という意味ではなく「良い天気になってほしい」という意味。
(↑)
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