Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第502夜

口は災いの元



 また病気の話。年なので、そうなってしまうのもご容赦いただきたい。
 今回は口内炎。

 調べてみると、奥の深い病気らしい。噛んでしまった、というような、明確に原因のある場合を別にすれば、疲労、胃の不調、ビタミン不足、細菌感染といくらも容疑者が浮かび、そのどれも決定的ではない。つか、人により状況により違う。つきつめていくと原因不明、ということもあるらしい。体質の問題もあり、確実な回避方法はない。
 俺も割となりやすいタイプだが、今回は、噛んでしまった。結構、あるんだよな。飯食ってたらガリ、っての。意外に唇が厚いのかもしれん。幸は薄いのにな。

 四国の一部で「けんびき」と言う、という話は何度もした。
 国語辞典としては、「肩癖」なんて字を当てたりしてるが、確かに、疲労と関連の深い病気で、地方によっては、「けんびき」が「疲労」「頭痛」を指すこともある。だから、さほど無理はない。医療現場でのすれ違いはあるかもしれないが。

 ここまでなんも考えずに「病気」と言っているが、実はその多くは「症状」である。
 わかりやすく言えば、「発熱」は「病気」ではなく、なんかの「病気」が原因で熱が上がることで、これは「症状」である。「高血圧」も症状だが、原因となる病気が見あたらないのにとにかく血圧が高い、なんつーときは「本態性高血圧」なんて言い方をする。

 俺の場合、えぐれるのがほとんどで、突起状になることは滅多にない。たまになると、それは歯や針でつぶしてしまう。きっと医者には怒られると思う。
 で、特に沁みなければ、うがいをする程度でほったらかしにしておくが、ひどければ薬を塗る。色々と試したが、薬屋とか担当者によって出てくる薬の種類が違うのが面白い。カラフルな市販品が出てくることもあれば、質素な、医者でよこす奴みたいな感じのこともある。
 それにしても、口内炎の薬ってのは、効いてるんだかどうなんだか。放っておいても一週間強で直るけど、それが一週間弱に縮むかしらん、という程度。おとなしく寝てりゃなおるけど、飲むと楽かも、って感じで、風邪薬みたいなもんだろうか。

 と思っていたら、「かぜねつ」という単語を発見。福井ないし石川で使われる。
 これがまた、地域によるのか人によるのか、意味がまちまち。
「口内炎」というくらいだから、口の中だと思うのだが、唇にできるものを指していることもあるし、歯茎と限定していたり、唇が腫れてしまうこと、としている人もいる。さすが俚言、というところだろうか。
 ここから先がまた混沌としてくる。
かぜのはな」という表現がある。風邪引くとポワっと出来上がるから、ということだろうか。これも、多くは唇にできるものとなっているが、まれに、口の中のものを指していることもある。
 同じく「ねつのはな」というのもある。
「はな」は「華」の字が当てられることが多いようだ。
 さらに「しんけいのはな」というのもあるが、これは一例しかない。とは言え、広島県医師会という公の団体なので、そういい加減な話でもあるまい。
 実は、この辺から別の病気になってくる。
かぜのはな」の時点で、「口唇ヘルペス」という名前が出てくるのだが、「帯状ヘルペス」になると単なるできものではなく、神経に沿って痛みを伴うようになる。「しんけいのはな」という呼び方はそこから来ているのだと思われる。
ねつのふきだし」になると、どう考えても突起である。
 実は、どれも例が少ない。したがって、地域性もはっきりしないのだが、「かぜのはな」は北陸、「ねつのはな」については山陰の言葉である、としているページもある。
 どれもなんだか長い表現で、しかも、それぞれの語を構成する単語が地域特有の俚言でない。そのせいか、「気づかない方言」になっていることもあるようだ。

 面白いことに (病気の話で「面白い」は失礼だが)、困っている人は非常に多いらしく、「口内炎」でググるとものすごい数のページがヒットする。
 そんな中でみつけた「たら's ほ〜む」のページが楽しい (いや、だから失礼だって)。
 さすがに、口粘膜にオキシドールをつける、というのはおっかなくてできないが、うがい薬を希釈せずに塗る、というのはやってみた。これが不思議なことに全然、沁みないのだった。薄めてうがいすると激痛が走るんだけどねぇ。俺がつけてる薬で悪化した人もいるらしいし、本当に、こういうのは、個人個人で違うことを痛感 (文字通りだ)。
 硝酸銀での治療は昔、歯医者でやってもらったことがあるが、これが保険外、自費診療だとは知らなんだ。

 例によって、ささいな症状でも、なんかの病気が隠れていることもあるので、長引いたり、頻繁に発生したりするときは医者に診てもらうべきであることは言うまでもない。自分がやってないのに言うのもあれだが。
 食事中に唇をかんでしまう、というのは何科に見てもらえばいいのだろうか。






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