Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第466夜

方言番組二つ



 気がついて改めて見てみると、日本語関係のテレビ番組が増えていた。まぁその中には、「正しい日本語」教信者のための番組もあるので要注意ではあるが、方言関係の番組についてちょっと。

 まずは、「週刊ことばマガジン*1」。東北電力提供なので、東北六県プラス新潟が守備範囲。これを「東北七県」と呼ぶことがありますが、地域外の方、聞いたことありますか?
 15 分番組で、各地のアナウンサーが、週毎の表現の由来を尋ねつつ、時には、今は使われていない、という現状も織り込みつつ、基本的にはコミカルに紹介していく、というスタイル。なんと東北大学 方言研究センター監修。
 語源をたどってくと、民間語源ばっかりだったり、結局わかんなかったりすることが多いが、監修がしっかりしているからか、わからないときは、わからない、ときちんと言うところがえらい。

 その分野の老舗といったら、やっぱり NHK 教育。「知るを楽しむ」という番組の「日本語なるほど塾」というシリーズで、8〜9 月は東京弁と沖縄弁をやっていた。
 実は、本屋でテキストは目にしていたのだが、大してそそられなかったので手にとってもいなかった。だが、その沖縄の方が、いわゆる「沖縄弁」ではなく「ウチナーヤマトグチ」であることを聞いて、慌てて再放送に飛びついた。既に初回は終わっていたが、後ろの 3 回には間に合った。

「イキで勝負! 東京ことば」の方は見られなかったので、テキストを読んでの感想。担当は、林えり子というモノ書きの人。
 いきなりひっかっかったのは、「川柳」。これは、始めた人の雅号らしいのだが、それを知らない人が多いのでビックリする、とある。
 それって、知ってなきゃならないような基本的常識か? 大概の人は、短歌の方が俳句より長い、というあたりだろう。俳句と狂歌と川柳の違いを説明できる人なんてものすごく少ないと思うんだが。
 冒頭に「潔いけど拗 (ねじ) けている東京っ子気質」とあるし、東京弁を一方言と位置付けていることも語られている。「標準語」との違いも意識されていて、東京弁礼賛ではない。
 が、「地方」という単語が頻繁に出てくる。これを「ほかの」という表現を伴わずに使ってほかの地方を示そうとした場合、それは「田舎」という意味になる。残念ながら、東京以外を見下す姿勢から自由ではないようだ。そういうつもりはないんだとすれば、言葉の選択が迂闊だ。*2
「小言は言うべし、酒は買うべし」というフレーズが紹介される。これ、説教はついやりすぎてしまうから、それを和らげる意味で、後で、酒代を渡すといい、と解説されているが、その行為にはものすごく違和感を覚えるのだがどうか。説教しといて金をやる?
「宵越しの金を持たない」、というのは江戸っ子を説明するときによく使われるが、これには、「やりたくないことをやってまで稼ごうとは思わない」という、考え方の問題であると同時に、今日は失業してても明日になれば別の仕事がある、という都会特有の事情もあったそうだ。こうした点は確かに面白く、「知るを楽しむ」の番組名にぴったりである。

「沖縄ことばチャンプルー」は、「ちゅらさん」の方言指導をした藤木勇人の担当。
 戦争に関する言及が多い。太平洋戦争にしろ、9.11 にしろ頻繁に出てくる。第一印象は、メッセージ性の強い番組だなぁ、というものだった。抗議の電話とか行ってないのかしらん。
「ウチナーヤマトグチ」というのは、「沖縄大和口」と書き、全国共通語の影響を受けた沖縄弁のことである。
 沖縄の言葉は、島ごとに違い、しかも、島の中でも更に違うため、それをそのまま放送に載せたのでは、到底、ほかの地域の人には理解されないので、「ウチナーヤマトグチ」に近い言葉を考案した。スタッフは「ちゅらさん言葉」と呼んでいたそうである。
「魂脱ぎ (まぶいぬぎ)」というのは、「驚く」ということで、びっくりして魂が抜けていってしまう、魂を落としてしまう、ということなのだが、これは「たまげる (魂消える)」と考え方は同じである。ただし、沖縄では、その際に「魂を戻す」おまじないがあったり、ユタ (霊媒師) による「魂込め (まぶいぐみ)」という儀式を行ったりするのだが、「たまげる」にはそれに対応する事柄が無い。「落とす」と「消える」の違いだろうか。

 このテキストには、コラムがいくつかある。
ことばおじさんの気になる言葉」というコラムに、ものの数え方の話題があって、羊羹は「棹」で数えるのだ、と言う。なぜ「棹」なのか、について、「材料を棹に流し」とあるのだが、それってどういうこと? 棹って棒だろ?
 ちょっとググったところでは、材料を流し込む型を「舟」と呼ぶのだが、「舟」と言えば「棹」、というダジャレ関係だという説明があった。
 金田一秀穂のコーナーもあって、たとえば、「キタラ」と「ギダラ」のどっちが悪者か、などという問いもあって面白い。怪獣の名前に濁音が多いのはなぜか、というのを分析した本があったが、書名を忘れて入手できないでいる。たしか、言語学の人ではなくて、広告分野の人が書いた新書だったと思うのだが。*3

 別に、NHK 擁護をするつもりはないし、「週刊ことばマガジン」は民放の番組だが、こういうことをやろうとした場合、やっぱり NHK に軍配が上がるなぁ、と思う。
 放送局の買収が話題になると、「放送局は公器だ」とか「メディアとしての品位」とか言う人がいるが、どうも説得力に欠ける。そこをなんとかしたら。
 ただ、TBS に喧嘩を売ってるあの人、TBS のコア コンテンツであるウルトラマンに対する愛情はなさそうだな。




*1
 ところで、東日本放送って、なんで“KHB”なの? まさか“Kabushikigaisha Higashinippon Broadcasting”?

 会社の同僚から情報をもらった。“Kabushi kikaisha Higashinippon Broadcasting”だそうだ。「かぶしきいしゃ」なのがポイント。(051113 追記)(
)

*2
 東京都が「地方」公共団体である、というのに違和感を覚える人もいると思う。
 昔、銀行のネットが整う前、「
埼玉銀行 (当時) が都市銀行のネットに入ってて、横浜銀行が入ってないのは納得いかん」と言っていた奴がいた。()

*3
『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか (黒川伊保子、新潮選書)』。
 ものすごく評判が悪い。
 改めて、見出しを眺めてみた。
 売れている車の名前には C の音が多い、ということで、カローラ、カマロ、セドリックをあげているが、それは‘C’という「字」で始まる名前ではあっても、‘C’の「音」で始まっているわけではあるまい。受け取り方について、音になんらかの効果があることは認めるが、カ行とサ行が同じだとは思えないし、サ行の中でもシはまた別の音だし、拗音が入ったらどうなの(キャデラック、キャバリエ、キューブ)という問題もあろう。
 本当なら、読んでから批判するべきだろうが、今のところ、その必要を感じない。積ん読も溜まってるし。(051113 追記)(
)





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