Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第459夜

たばる



 前から気になっている「くたばる」と「のたばる」の類似について。
 別に、疲れているからこのお題にしたわけではない。まぁ、確かに、今日はレースでヘロヘロになって、やっと帰ってきたところではあるのだが。

 まずは、「〜たばる」という語がほかにあるかどうかをググってみる。
「田原坂」「新田原」がやたらと引っかかるのでそれを除外していくと、「たばる」という語があることを発見。
「貰う」という意味は「賜る」の変化したもの。
 奈良・和歌山近辺で「お供えしたものを下ろす」という意味で使われるが、これも「賜る」。保存の利くお菓子や酒なんかは、あとで現世の人間が口にするわけだが、それを「賜る」と表現したのに違いない。
 京都や兵庫の北部では、「とっておく」という意味で使われる。

スタバる」は「スターバックスでラテを飲む」ということで、地域的な方言とはいえないが、世代方言ではあるだろう。尤も、スタバの店がないところでは使わないだろうから、地域的な偏りはあるだろうが。
ドトる」はあり、「タリる」もあるようだが、「タリる」に限っては、「TULLY'S でアルバイトをする」という意味だ、という説明を見かけた。仲間内の表現か。「エクセシオる」もあるが、どれも非常に数が少ない。それぞれ 92 件、9 件、2 件で、「スタバる」が 300 件を越えるのとは対照的。
 店舗の展開状況によるのかとも思う。田舎の秋田には、EXCELSIOR はなく、STARBUCKS、DOUTOR、TULLY'S とも 2 軒ずつしかないが、開店の時期から言えば、STARBUCKS よりは DOUTOR の方がはるかに早いので、そうとも言い切れない。ブームを引き起こしたかどうか、というのは大きいかもしれない。
 世代方言ということで挙げるなら、「スタンバる」か。「準備を整えておく」という意味だが、「機動戦士ガンダム (いわゆる『ファースト・ガンダム』)」のブライトさんが普及させたんだと思う。正確には、ブライトさんが使ったのは「スタンバっておく」で、「スタンバる」の方が発展形だということのようだ。もうすっかり浸透してる、と思ったが、「スタンバる」の用例がわずか 1,500 だったのでちょっと驚いた。
 でも、たとえば地域の運動会の準備とか、老若男女が入り乱れているところで「スタンバる」を使ったら、違和感あるか。

ねたばる」という警察の隠語がある。「捕まる」「露見する」なのだが、これはひょっとして「ネタがばれる」か? 警察の近くで「ネタバレ注意」とかいうとまずいことになるのか?

 話を戻そう。
 秋田を含む東北で使われている「のたばる」について。
 意味が、「うつ伏せになる」であることを確認した。すっかり、「体を横たえる」という意味だとばっかり思っていた。
 もとは「のたる」+「這う」の複合形 (「食い散らかす」とか「吐き捨てる」とか) で、それが一語となって、更に音が変化したもの、という説明が『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』はじめあちこちにある。
 あれ。
 ということは、これは「の+たばる」ではなく「のた+ばる」なのか?

 あわてて、「くたばる」へ。
 前に、「くたびれる」とも似てる、と書いたが、これはどうやら「くだつ (下つ/降つ)」らしい。「盛りを過ぎる。衰える (大辞林)」という意味。「ばる」についての説明は見当たらないが、意味から想像して、「這う」ということもありえないではない。

 というわけで、「〜たばる」という形が共通しているのは偶然ということになるのだが、それにしては「へたばる」なんて語もあったりして、偶然にしては意味が近すぎないか、と未練たらしく考えている。「へたばる」だって「這う」ことになることは多いだろうし (大辞林では「体を前にふせる。平伏する」という語釈を与えている)、あるいは、「這う」を使った複合語が一語に残った例の塊なんだろうか。

「くたくた」という擬態語があるが、これはこの「くだつ」から来たものだろうか。
 だとすれば、新鮮なものを、「取れたばっかり」ということで「とれとれ」と表現することに眉をひそめる「正しい日本語」教の信者の皆さんは、「くたくた」は使えないことになるが。

「うつぶせ」については、「うつむせ」という誤用がある。“The Cubic Website”の記事によれば、大阪を中心に、「こむらがえり」「こぶらがえり」というような、m と b の入れ替わる現象があるらしいので、「誤用」と言っていいのかどうかは疑問だが。
「うつぶせ」と「うつむせ」が違うことに気づかないで使ってる人がいるかと思って、AND 検索してみたら、やたらとアダルトなページがヒットして困った。*1

「くたびれる」は「草臥れる」と書くが、「草臥」は当て字らしい。「臥」も「伏せる」って意味だなぁ。
 山口瞳の命日を「草臥忌」と呼ぶそうだ。これも用例はあまり多くないが、「草臥」は山口瞳が使った俳号だそうである。

 というわけで、一応、疑問は解決した、ということにしておく。すっきりしないが。






*1
「アダルト」と「大人な」とでは意味が違う。日本語の柔軟性のすばらしいことよ。「アダルティ」という造語が生まれるのは、そう誤解されるのを嫌ったからか。(
)





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